京都と奈良の国立博で5つの特集展示
2026年1月1日号
白鳥正夫
国際政治の緊張、地震や津波など大規模な自然災害への不安、そしてAI普及に伴う経済や社会生活への功罪など難題山積の年明けです。せめてお正月は初詣を兼ね、古都の京都や奈良の美術展でくつろいではいかがでしょう。京都国立博物館では「京博のお正月」と銘打って新春特集展示「うまづくし―干支を愛でる―」と特集展示「薩摩島津氏と東福寺即宗院」(ともに~1月25日)、特集展示「光琳かるたと小西家伝来尾形光琳関係資料」(~2月1日)を開催中です。一方、奈良国立博物館では特集展示「新たに修理された文化財」(~1月18日)と、修理完成記念特別公開「興福寺伝来の四天王像」(~3月15日)が開催されています。
京都国立博物館の新春特集展示「うまづくし―干支を愛でる―」
日本や中国の美術の中に表わされた馬の姿
新春恒例の干支がテーマの特集展示です。干支にちなんだ作品を紹介する特集展示は2016年から再スタートし、第11弾を数えます。同館では1901(明治34)年の丑年より10年間、干支にちなんだ展示が行われ、丑→寅→卯→辰→巳→午→未→申→酉→戌と続きました。
2026 年の干支は午(馬)です。馬は人の身近にいる生き物でした。人を乗せて走ったり、重たい荷物を運んだり、さまざまな力仕事をしていたのです。また、戦で活躍する武将たちにとって、足が速く美しい馬はあこがれの的でした。
美しい装飾で彩られた唐三彩の馬俑、遺跡や古墳から出土した土馬や埴輪、騎馬の姿をあしらった小袖(着物)、馬屋の前で人々がくつろぐ様子を描いた絵画など、馬と人との関わりを多角的に伝える作品など20件余が並びます。
会場では、「あこがれの馬」「かける馬」「いのりと馬」「うまづくし!といったテーマに沿って展示されています。
主な展示作品(いずれも京都国立博物館蔵)に、重要美術品の《三彩馬俑》(中国・唐時代 8世紀)をはじめ、《楊妃撃丸図》(中国・明時代 16~17世紀)《賀茂競馬文様小袖》(江戸時代 18世紀)、重要文化財の景徐周麟賛《駿馬図》(室町時代 15~16世紀)などが出品されています。

重要美術品《三彩馬俑》
(中国・唐時代 8世紀、京都国立博物館蔵)
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賀茂競馬文様小袖
(江戸時代18世紀、京都国立博物館蔵)
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さらに塩川文麟筆《駿馬図屏風》は、ほぼ実物大の馬を、一般的な屏風の倍となる6曲2双で描いた大作で、展示室でもひときわ存在感があります。
京都国立博物館の特集展示「薩摩島津氏と東福寺即宗院」
即宗院再興をめぐる古文書、150年ぶりの発見
即宗院は、京都を代表する禅寺・東福寺の塔頭のひとつ。代々薩摩(現在の鹿児島)を治めてきた島津氏の、京都での菩提寺だったお寺です。
南北朝時代の武将で、島津氏6代当主・島津氏久の菩提を弔うための1387年に創建されましたが、1569年に一度焼失しました。1613年に再興されたものの、明治維新後の1869年に廃寺となりました。その際に伝来していた文化財の多くは散逸してしまいましたが、一部の古文書や工芸品を手に入れた方が2022年に京博へ寄贈されたことで、150年ぶりの発見となったのです。
展示の中心は、即宗院再興をめぐる1570年頃から1613年頃までの古文書。それぞれに丁寧な解説が添えられています。資料のこれまでの調査の成果も記されています。
古文書が書かれた安土桃山~江戸初期にかけては、島津氏にとっても激動の時代。先祖のお寺を再興しようとあちこちに協力を求めたものの、豊臣秀吉と対立したことで中断を余儀なくされていたことなど、時代背景から島津氏のお家事情や周囲の人々との関係性も見えます。また追伸が生じたときに書き込めるよう、スペースをあけて記されているなど、当時の手紙がどのように書かれたかがわかります。
《沼津承正書状(折紙、仲夏廿日九日付)》(桃山時代 慶長18年・1613年、長岡成光氏寄贈、京都国立博物館蔵)は、即宗院の障壁画を手掛けた絵師・沼津承正の書状で、東福寺即宗院(薩摩島津氏菩提寺)関係文書の一部です。

《沼津承正書状(折紙、仲夏廿日九日付)》
(桃山時代 慶長18年・1613年、
長岡成光氏寄贈、京都国立博物館蔵)
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京都国立博物館の特集展示「光琳かるたと小西家伝来尾形光琳関係資料」
100組200枚の「光琳かるた」、関西では初展示
《小倉百人一首歌留多》は、江戸時代中期に活躍した「琳派」を代表する絵師・尾形光琳が手がけた作品で、「光琳かるた」の名で知られています。今回は、読み札・取り札あわせて100組200枚すべてのかるたを一挙公開しています。1972年に東京国立博物館で展示されて以来、53年ぶりで、関西では初展示となります。
本展では、完成したかるたに加え、制作過程の画稿(下絵)も併せて展示されています。これは京博が所蔵する「小西家伝来尾形光琳関係資料」の中に含まれているもの。完成品と並べて見比べることで、下絵段階から完成品ではどんなところが変更されたのかがわかるようになっています。
いずれも尾形光琳筆による、江戸時代18世紀の作品です。

重要文化財《百人一首画稿
(小西家伝来尾形光琳関係資料のうち)》
(江戸時代 18世紀、京都国立博物館蔵)
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《小倉百人一首歌留多》
(江戸時代 18世紀)
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また尾形光琳筆《竹虎図》(江戸時代 18世紀、京都国立博物館蔵)は、京博の公式キャラクター「トラりん」のもとになった作品です。他にも、光琳作の屏風とその下絵なども紹介され、光琳の制作過程を垣間見ることができます。

《竹虎図》
(江戸時代 18世紀、京都国立博物館蔵)
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奈良国立博物館の特集展示「新たに修理された文化財」
《藤原鎌足像》など7件を修理内容とともに展示
長い歴史を経て今に伝わる文化財は、その多くが過去に人の手による修理を受けながら大切に保存されてきたものです。これらの文化財をさらに未来へと継承していくために、奈良博では、彫刻・絵画・書跡・工芸・考古の各分野の収蔵品(館蔵品・寄託品)について、毎年度計画的に修理を実施しています。
今回の特集展示では、前年度までに修理された文化財の中から選りすぐった文化財7件を展示公開するとともに、その修理内容についてパネルで、分かりやすく紹介しています。
主な展示品は、《藤原鎌足像》(安土桃山時代 16世紀)や、《宝幢形経筒(宝幢形経筒》(伝北九州出土、平安時代 12世紀、ともに奈良国立博物館蔵)などです。

《藤原鎌足像》
(安土桃山時代 16世紀、奈良国立博物館蔵)
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《宝幢形経筒(宝幢形経筒》
(伝北九州出土、平安時代 12世紀、奈良国立博物館蔵)
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重要文化財の木像《大津皇子坐像》(鎌倉時代 13~14世紀、奈良・薬師寺蔵)は、表面の剝落止めなどを中心に、像の印象を変えないように修理が行われています。また京都府暫定登録文化財の《四天王立像》(鎌倉時代 13世紀、京都・現光寺蔵)は、各像ともに経年の汚れに覆われ、後世に補われた部材が形状不適合で尊容を損ねていました。この度の保存修理で制作当初の彩色や截金を痛めないよう慎重に表面をクリーニングし、後補部材を取り外し、新たに補っています。

京都府暫定登録文化財の《四天王立像》
(鎌倉時代 13世紀、京都・現光寺蔵)
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さらに仏画の《青面金剛像》(南北朝時代 14世紀、京都・西明寺蔵)は、来館者らの寄付により本格修理が実現。過去の修理の際の裏打ちなどを取り外し、誤った場所に接合されていた断片を本来の場所に戻すなどの修理を施しています。
奈良国立博物館の修理完成記念特別公開「興福寺伝来の四天王像」
4躯が揃って28年ぶりに奈良博の仏像館に集合
奈良博所蔵の重要文化財《四天王像》(平安時代末~鎌倉時代 12~13世紀)のうち、増長天と多聞天の修理が完成したのを記念し、寄託品の広目天、滋賀のMIHO MUSEUM所蔵の持国天と共に特別公開されています。

重要文化財《増長天立像》の崩落止めの様子
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増長天と多聞天は、明治39年(1906年)まで興福寺に伝わり、その後所蔵者が別々になりました。四天王が、28年ぶりに奈良博の仏像館に集合しました。この四天王像が興福寺のどの建物に安置されていたものかは不明です。

重要文化財《増長天立像》
(平安~鎌倉時代 12~13世紀、奈良国立博物館蔵)
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重要文化財《多聞天立像》
(平安~鎌倉時代 12~13世紀、奈良国立博物館蔵)
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広目天を除く3躯は、1906年に同寺から実業家で美術品コレクターの益田孝(1848~1938)に譲渡されたといわれています。その後所有者が変わり、増長天と多聞天は奈良博、持国天はMIHO MUSEUMが所蔵。広目天は興福寺所蔵のまま、現在は奈良博に寄託されています。
奈良博は米銀大手バンク・オブ・アメリカの助成を受けて、館蔵の増長天、多聞天の亀裂が入ったり、表面が浮き上がったりした部分を修理しました。その際に持国天、広目天も含む4躯をCT(コンピューター断層撮影)で調査し、像の構造などを確認しました。

重要文化財《広目天立像》
(平安~鎌倉時代 12~13世紀、奈良・興福寺)
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重要文化財《持国天立像》
(平安~鎌倉時代 12~13世紀、
滋賀・MIHO MUSEUM)
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その結果、木材の使い方などから、平安時代末~鎌倉時代初め(12世紀後半~13世紀初め)に奈良を拠点とする「奈良仏師」によって作られたものと推定されました。目の瞳を銅製の鋲で作るなどの特徴的な技法も確認されました。
奈良博では「4躯が揃うのは1997年の当館の特別展以来、28年ぶり。この機会に多くの人に見ていただき、研究がさらに進めたい」と話しています。

重要文化財《四天王立像》の展示風景
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しらとり まさお
文化ジャーナリスト、民族藝術学会会員、関西ジャーナリズム研究会会員、朝日新聞社元企画委員
1944年、新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、1970年に朝日新聞社入社。広島・和歌山両支局で記者、大阪本社整理部員。鳥取・金沢両支局長から本社企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を努める。この間、戦後50年企画、朝日新聞創刊120周年記念プロジェクト「シルクロード 三蔵法師の道」などに携わる。 |
新刊
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単なる旅行記ではなく、「人生をどう生きるか」を問う文化的人生書。玄奘三蔵の足跡をたどるシルクロードの旅をはじめ、世界遺産めぐり、インド・ガンジス河で生と死を見つめた体験や戦争の痕跡を残す土地や、などをはじめ、はライフワークとなった。戦争の痕跡を残す土地などを綴る。 |
旅で磨こう「文化力」
――人・風土・歴史を学び、気づきを伝える
発売日:2025年12月12日
定価:1,430円(税込)
発行:パレード |
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「シルクロードを界遺産に」と、提唱したのは故平山郁夫さんだ。シルクロードの作品を数多く遺し、ユネスコ親善大使として文化財保存活動に邁進した。
社長業を投げ捨て僧侶になった小島康誉さんは、新疆ウイグル自治区の遺跡の修復や調査支援を30年も続けている。
シベリアに抑留された体験を持つ加藤九祚さんは90歳を超えて、仏教遺跡の発掘ロマンを持続する。
玄奘の意志に導かれアフガン往還半世紀になる前田耕作さんは、悲劇のバーミヤンの再生に情熱を燃やす。 |
シルクロードの現代日本人列伝
―彼らはなぜ、文化財保護に懸けるのか?
世界文化遺産登録記念出版
発売日:2014年10月25日
定価:1,620円(税込)
発行:三五館 |
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「反戦」と「老い」と「性」を描いた新藤監督への鎮魂のオマージュ
第一章 戦争を許さず人間愛の映画魂
第二章 「太陽はのぼるか」の全文公開
第三章 生きているかぎり生きぬきたい
人生の「夢」を持ち続け、100歳の生涯を貫いた新藤監督。その「夢」に交差した著者に、50作目の新藤監督の「夢」が遺された。幻の創作ノートは、朝日新聞社時代に映画製作を企画した際に新藤監督から託された。一周忌を機に、全文を公開し、亡き監督を追悼し、その「夢」を伝える。 |
新藤兼人、未完映画の精神 幻の創作ノート
「太陽はのぼるか」
発売日:2013年5月29日
定価:1,575円(税込)
発行:三五館 |
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第一章 アートを支え伝える
第二章 多種多彩、百花繚乱の展覧会
第三章 アーティストの精神と挑戦
第四章 アーティストの精神と挑戦
第五章 味わい深い日本の作家
第六章 展覧会、新たな潮流
第七章 「美」と世界遺産を巡る旅
第八章 美術館の役割とアートの展開
新聞社の企画事業に長年かかわり、その後も文化ジャ-ナリスとして追跡する筆者が、美術館や展覧会の現況や課題、作家の精神や鑑賞のあり方、さらに世界の美術紀行まで幅広く報告する |
展覧会が10倍楽しくなる!
アート鑑賞の玉手箱
発売日:2013年4月10日
定価:2,415円(税込)
発行:梧桐書院 |
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・国家破綻危機のギリシャから
・「絆」によって蘇ったベトナム絹絵 ・平山郁夫が提唱した文化財赤十字構想
・中山恭子提言「文化のプラットホーム」
・岩城宏之が創った「おらが街のオケ」
・立松和平の遺志,知床に根づく共生の心
・別子銅山の産業遺産活かしまちづくり
「文化とは生き方や生き様そのものだ」と 説く著者が、平山郁夫、中山恭子氏らの文 化活動から、金沢の一市民によるベトナム 絹絵修復プロジェクトまで、有名無名を問 わず文化の担い手たちの現場に肉薄、その ドラマを活写。文化の現場レポートから、 3.11以降の「文化」の意味合いを考える。 |
ベトナム絹絵を蘇らせた日本人
「文化」を紡ぎ、伝える物語
発売日:2012年5月5日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館 |
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序 章 国境を超えて心の「家族」がいる
第一章 各界識者と「共生」を語る
第二章 変容する共産・社会主義
世界の「共生」
第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
広がる「共生」の輪
私たちは誰しも一人では生きていけな
いことをわかっていながら、家族や地域、国家 や国際社会のことに目を向けなくなっている。「人のきずなの大切さと、未来への視点」自らの体験を通じた提言としてまとめた。これからの生き方を考える何がしかのヒントになればと願う。 |
無常のわかる年代の、あなたへ
発売日:2008年3月17日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館 |
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アートの舞台裏へ
発売日:2007年11月1日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。 |
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アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
(木村重信さんの序文より) |
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「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。 |
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「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。 |
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夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。 |
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夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
内容:「本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、実地踏査にもとづいて報告されている」と山折哲雄先生が序文を寄せている。 |
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◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03-3226-0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06-6257-3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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