食事中の検札

 列車に間に合って、ほっとひといき、弁当を開いて食べ始めると、決まって「ご面倒ですが…」と車掌の検札がくる。私はかなり飼いならされている方だから、乗車券はシャツの胸ポケットの左側ときめていて、間近に彼が来るまで、カマボコやシイタケを口に運んでおり、悠然とお茶も飲んで、スイと差し出せる。
 が、隣席のおっちゃんは、食べかけの弁当を座席に置いて立ち上がり、網棚からバッグをおろし、シャツや書類、果ては洗面具セットから土産物まで全部取り出しても「ない」。
 こういうときは大抵、ごく身近な、例えばズボンのポケットあたりにあるはずだが、他人がいうことじゃない。車掌はぶぜんと立って疑いのまなざし。おっちゃんはいよいよあせって「改札口ではあったんじゃ」と汗だく。「お食事中の方は後ほど」といかないか。切符はズボンのポケットにあったが……。

     (嶽)   (2000年 大阪新聞より)

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