椿の旅はいかが

 雪中に咲く椿の花をみると、なぜお前はこんな厳しい季節に開花するのかと思う。奥能登の珠洲市にすばらしい椿の里がある。巨木もたくさんある。シベリア直送の雪降りしきるなかで、深紅の花を咲かせている。凛とした空気が張り詰めている。
 寒いけれども、その自然界にほのかな暖かさを教えてくれる雪中の椿に、波の華が舞う。日本列島日本海側の自生椿の北限地は、青森県西津軽郡深浦町にある。荒海の磯元ゆさぶる椿山は女人禁制だが、大浪のうねりにもまれつつ、薮椿の群落が育っている。ローカル線五能線沿い一二湖や不老不死温泉が周辺にあるが、冬は風が強くさめざめとした風土だ。
 京都や奈良の寺社には椿の名木が多いが、丹後加悦(かや)町の山奥にある千年椿はもののけの気配がある。伊豆大島、足摺、長州萩、天草などの海岸地帯には薮椿の群落は多い。椿の旅はいかが。

     (嶽)   (1998年 大阪新聞より)

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