四天王寺散歩「乳のおんばさん」 林 豊


 前々回のポンポン石から少し入った右手に、七福神の一つ『布袋さん』を祀る「布袋堂」という小さなお堂がある。布袋さんは中国の唐時代に実在した修行僧で、福々しい顔と大きな腹をし、布の袋を背負って旅をした。その袋には財宝が詰まっており、布袋さんの行くところ幸運がもたらされると信じられた。
 四天王寺の布袋さんは通称「乳布袋」とか「乳のおんばさん(お乳母さんの意)」と呼ばれ、ご利益もちょっと変わっている。乳が出ない人には乳を授け、出過ぎて困る人には乳上げを授けるという。
 昔の祈願の方法もユニークで、餅屋であんころ餅を二包求めて供え、その一包と小絵馬を受けて帰る。そして、餅を食べ、小絵馬を祀って祈る。願が叶えば、受けて来た小絵馬をお堂に奉納する。餅を食べると乳の出が良くなるといわれたことから始まった信仰と思えるが、バレンタインデーのチョコレートや節分の巻寿司まるかじりと同様、餅屋さんが言い出したのかも。


「Osakaあらかると」VOL.49(2002年Winter) より

林豊氏プロフィール>>>
 1939年大阪市生まれ。大阪府職員、編集会社代表を経て、現在フリーライターとして雑誌、PR誌などに執筆の他、歴史・文化講座や講演会の講師を務める。民族芸術学会会員、旅行ペンクラブ会員。著書に『古事記・日本書紀を歩く』『聖徳太子の寺を歩く』(JTBキャンブックス)、『徒然十二支考』(日経大阪PR)ほか。

 

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