四天王寺散歩「紙衣(かみこ)さん」 林 豊


 西大門と南大門のちょうど真ん中あたりに「かみこ堂」と書かれた提灯が幾つも吊るされたお堂がある。正式には“万灯院”といい、本尊も十一面観音だが、脇に紙の衣を着た仏(紙衣《かみこ》さん)が祀られるところから、俗にこの名で呼ばれている。
 紙衣さんは五百羅漢の一人で、難病に苦しみながら紙の衣を着て修行し、除災無病の利益を人々に与えようと誓願をたてたといわれる。この仏を祀るのは日本で四天王寺のみというところから、いつしか本尊を凌ぐ信仰を集めるようになったとか。
 ご利益は、堂前の台に置かれた木槌で三遍台を叩き、次に肩や腰など悪い部分を叩くことを二回繰り返すと治るという。
 また毎年、10月10日に紙衣を着せ替える法要が行われるが、参詣者の背中に紙の衣をあてる加持も行われる。これを3年続けた人は不浄の世話を受けずに往生できるといわれ、この日は長い行列ができる。昔も今も、下の世話をかけたくないという気持ちは変わらないようだ。


「Osakaあらかると」VOL.48(2002年Autumn) より

林豊氏プロフィール>>>
 1939年大阪市生まれ。大阪府職員、編集会社代表を経て、現在フリーライターとして雑誌、PR誌などに執筆の他、歴史・文化講座や講演会の講師を務める。民族芸術学会会員、旅行ペンクラブ会員。著書に『古事記・日本書紀を歩く』『聖徳太子の寺を歩く』(JTBキャンブックス)、『徒然十二支考』(日経大阪PR)ほか。

 

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