琵琶湖一周サイクリングに参加して

2007年5月20日号

白鳥正夫


前日に開かれたスローライフをテーマにした「びわ湖セミナー」(琵琶湖コンフェレンスセンターで、佐々木章さん撮影)

「バイク」と「エコロジー」を合成した「バイコロジー」という造語を聞いたことがあります。そんな言葉の滋賀県バイコロジーをすすめる会が主催する琵琶湖一周サイクリング大会に、思いもかけず参加しました。自転車を通して環境にやさしく健康的なライフスタイルと心豊かな地域社会を創造していこうとの趣旨で、琵琶湖の北湖約150キロを2日間かけて回ります。スピードと便利さを追求してきた「くるま社会」の中にあって、見過ごしていた風景の再発見がありました。風や音、におい、そして何より自然を満喫する風景との出会いは、まさに文化を体感する思いがしました。

スロー社会に合うバイコロジー

「日本一大きい湖を一周してみませんか」と呼びかける大会は、ゴールデンウィークの5月5−6日に開催されました。1986年から始まり、21回目を迎えます。参加者は10歳から94歳までの63人ですが、ほとんどが50歳以上の中高年です。男性6、女性4の割合で、東京から熊本まで県外参加者が7割を占めます。参加者をサポートするボランティアのスタッフが27人で、こちらの半数は地元からです。スタッフの人数から参加者を限定募集する態勢で、これまで全員が完走しているといいます。


準備体操には、「スポレク」のキャラクターなまず君の着ぐるみも登場

大会前日にオリエンテーションが組まれ、サイクリングの安全教室やコースの説明、さらには自転車の点検・調整などがありました。今回は滋賀県で来年開かれる全国スポーツ・レクレーション祭「スポレク2008」のプレイベントでもあり、「びわ湖セミナー」の行事が盛り込まれました。「スローライフを楽しもう」のテーマで、前知事で滋賀県体育協会会長の国松善次さんとカフェスロー代表の吉岡淳さんを迎え、私が司会したのでした。

スローな社会とは、できるだけ電気やガスなどのエネルギーを使わず、無農薬の自然食を求める地球にやさしい生き方です。吉岡さんは東京・府中にカフェスローを設立し、無農薬コーヒーを出し、月に何度かローソクの灯の「暗闇カフェ」を実施しています。また店内の内装には、近江平野で収穫された稲わらや琵琶湖のヨシを使っています。


2日間のサイクリングに出発

最年少参加者、10歳の少年と筆者
(彦根港で、佐々木章さん撮影)

吉岡さんは「ユネスコの仕事を30年やってみて、もっと地域に根ざし足元から生活を見直そうと思いました。便利な社会がいかに環境破壊につながっているかということで、カフェから、人間と自然や社会、人間と人間の関係を問い直したいと考えています。ペットボトルや割り箸を使わず、時にはローソクで過ごすのもいいものです。私は四季の移ろいを感じながら自転車通勤をしています」と話していました。

国松さんは、「宇宙船びわこ号」を提唱し、10年以上、知事の時代も自転車で琵琶湖一周に取り組んでいるサイクリング愛好者です。その国松さんは「琵琶湖は、1000メートル級の山々に囲まれ、人や鳥、魚などのさまざまな生き物が自然と共生し、地球の縮図であり小宇宙を形作っているのです」「琵琶湖の景色のすばらしさを見ながら自然と触れ合い、先人が築いてきた歴史、文化に立ち寄ることもできる自転車の魅力の虜になりました」などと強調されました。

湖畔の風、野鳥や草花を満喫


風を切って湖北での琵琶湖畔の快適な走行

冒頭、「思いもかけず参加」と書いていますが、私はセミナーに招かれただけと思っていたのですが、スタッフの一員として数えられていたのです。長距離走行の経験がなく躊躇しましたが、スローライフを提唱しながら、「ここで逃げたのでは…」と思い返し、参加することになったのです。

彦根市の新海浜から反時計回りに琵琶湖大橋を渡って戻ってくるコースです。1日目が彦根港−長浜城−賤ヶ岳―海津大崎を経て奥琵琶湖の高島市マキノまでの約70キロ。2日目は今津浜−新旭風車村−白髭神社−近江舞子から琵琶湖大橋を渡り近江八幡を経て彦根に戻る約80キロです。いずれも準備体操の後、午前7時半前後に出発し午後4時過ぎまで、食事や休憩を除くと連日7時間強の走行となります。


長浜城を背景に大会参加者の記念写真(主催者提供)

和気あいあいの懇親会風景(佐々木章さん撮影)

「自転車に乗れる方なら誰でも完走できます」との触れ込み通り、走行ペースは時速12キロそこそこ。6班に分かれ、それぞれ経験豊かなリーダーとサブリーダーが前後を走ります。途中、フリーコースもありますが、次の休憩地点で調整します。体力や年齢差をカバーする配慮がなされていました。

初日は心配された雨も降らず、好天に恵まれ、薫風を切ってのサイクリングとなりました。途中、彦根港や長浜城などにも立ち寄り記念写真などを撮ることができました。長浜を過ぎ湖北町に入ると水鳥公園までの湖畔は、自転車道路が→も整備されていて、竹生島を横目に気分も爽快です。とはいっても、難所もあります。羽柴秀吉と柴田勝家が戦った古戦場の賤ヶ岳付近のトンネルでは息切れがしました。坂道を登り、トンネルを抜けると、眼下に奥琵琶湖の美しい景色が広がり、うれしい下り道です。


2日目は雨中の出発

2日目は一転、朝から雨になりました。雨天決行は原則になっていて、正直言って辛いサイクリングとなりました。しかも雨は一日中降り続き、時折り雨足を強めます。メガネが曇り水玉がかかるハンディを背負い、ただゴールをめざして走るばかりです。それだけに新旭風車村や白髭神社での雨宿り休憩は格別でした。さらに雨の琵琶湖も幽玄的であり、とりわけ琵琶湖大橋を雨中、上り勾配は自転車を引いて歩き、高台にたっしてからの長い下りを一気に駆け抜けた思い出はいつまでも忘れられないことでしょう。


目をなごませてくれるジャンボな風車(新旭風車村で)

2日間の道中、ウグイスやカイツブリの鳴き声を耳にし、道端にはタンポポやレンゲなどの草花に目をとめました。路傍の石仏も趣がありました。また雨の中も田植え準備にいそしむ農夫の姿を見かけ、田んぼからカエルの声が響いてきました。ゴール前の大中の湖干拓地では、その広さに驚くとともに、道路に散乱する牛糞のにおいに閉口しました。ともあれ行きかう土地の人たちと挨拶をし、励まされるなど、新鮮な自転車の旅であったことは間違いありません。

共生社会めざす人と人の連帯も

この大会を支えているのがボランティアによるスタッフです。宿泊や弁当の手配をはじめ事故や急病に備えたり、自転車の予備を積む伴走車を走らせます。また自転車のパンクに備え空気入れや、途中の空き缶やごみを取り除くほうきを背中に担いで走るスタッフもいます。さらにはベテランの中から常に先行して横断歩道や道案内する者もいて、万全な運営がなされているのです。


小雨に煙る琵琶湖大橋

初回から参加し、今回の先頭を走るペースメーカーのスタッフ、藤井忠晴さんは、すでに68歳を数えます。「個人個人のペースが違いますが、あくまでも全員に無事完走していただくのが目標なんです。このため初心者でも走れるゆっくり走行を心がけています」と話していました。

大会では、単にサイクリングを楽しむだけでなく、人と人との触れ合いや後進の育成にも力を注いでいました。このため夫婦や親子で参加していても班構成で分かれ、宿泊の部屋も別々になります。寝食を共にすることによって、短期間に連帯や団結の気持ちを培うためです。

閉会式では、ひとり一人に完走認定証を渡し、恒例となっている「琵琶湖周航の歌」を合唱しました。「われは湖の子 さすらいの 旅にしあれば しみじみと (中略)
志賀の都よ いざさらば」との歌詞通り、再会を期して各地へ別れていったのです。


湖岸道路を雨中を一列になって走る参加者

完走認定証の裏面には、滋賀県バイコロジーをすすめる会の宣言が書かれ「私たちは、自転車を人間尊重のステータスシンボルとして高く掲げ、積極的な利用と、そのための交通環境の整備を促すことによって、心豊かな地域社会づくりに寄与すべく、バイコロジー運動を推進します」と、締めくくられていました。

伊吹惠鐘事務局長(滋賀県湖北地域振興局副局長)は「20年を超す長い歴史になりました。県外からのスタッフにも力添えをいただき、成功裏に終えたことに感謝しています。来年は滋賀県で『スポレク』が開かれます。バイコロジー精神を継続し、盛り上げに役立てればうれしい」と抱負を語っていました。


出迎えの拍手の中をうれしいゴール

国松前知事は、急きょ韓国への出張が入り、楽しみにしていたサイクリングには参加できませんでした。しかし私への完走をねぎらう便りに「自転車を通じての共生社会の実践を」と、認められていました。私の脳裏には「来年も挑戦を」との気持ちが芽生えています。

滋賀県バイコロジーをすすめる会 0749(24)2883
〒522−0041 滋賀県彦根市平田町579−7
http://www.bikecology.jp
E-mail info@bikecology.jp


しらとり・まさお
ジャーナリスト、朝日新聞社前企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を務める。編著書に、『アートへの招待状』(梧桐書院) 『大人の旅」心得帖』 『「文化」は生きる「力」だ』(いずれも三五館)『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)などがある。

新刊
第一章 いま問われる、真の豊かさ
第二章 「文化」のある風景と、未来への試み
第三章 夢実現のための「第二の人生」へ
第四章 「文化」は人が育み、人に宿る

本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、きめ細かい実地踏査にもとづいていくつも報告されている。それらはどれをとっても、さまざまな可能性を含む魅力ある「文化のある風景」である。
(宗教学者。山折哲雄さんの序文より)
夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
新刊
第一章 展覧会とその舞台裏から
第二章 美術館に行ってみよう
第三章 アーティストの心意気と支える人たち
第四章 世界の美術館と世界遺産を訪ねて
 本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
(木村重信・兵庫県立美術館長の序文より)
アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢しごと 三蔵法師を伝えて
発売日:2000年12月21日
定価:本体1,800円+税
発行:東方出版
内容:玄奘三蔵の心を21世紀へ伝えたいという一心で企画した展覧会。構想から閉幕に至るまで、筆者が取り組んだ「夢しごと」のルポルタージュ。

◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06−6257−3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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