日中水墨交流協会の活動

2005年7月20日号

白鳥正夫

 小泉首相の靖国神社参拝や歴史教科書問題など日中関係のあつれきが続く中、社団法人日本中国水墨交流協会は地道に日中の文化交流を進めています。協会設立20周年を迎える今年は、記念事業として「終戦60周年 チャリティ平和祈念・水墨画展」を今月28日から31日まで広島アステールプラザ市民ギャラリーで開催します。今回は、水墨画に焦点を当て、協会の国際社会に目を向けた活動などを紹介します。

原爆ドームを描いた作品寄贈

 広島展は、今年が原爆被爆60周年にあたることから、被災し亡くなられた人たちに哀悼の意を表し、水墨画を捧げ平和を祈念しようと企画されました。水墨画の額絵や軸絵約180点と色紙約550点を展示しますが、入場無料です。中国人画家も約50点出展します。色紙は販売し売上金を広島市に寄金することにしています。
 協会では、開催を記念して評議員の粟井文山さん(本名文子、岡山市在住)の描いた『原爆ドームと平和観音菩薩像』(30号)を寄贈することになり、22日に広島市記者クラブで粟井さんが同席し発表します。この作品は1995年の中国・日本現代水墨画交流展(北京と東京で開催)で大賞を受賞しています。

広島市に寄贈する
「原爆ドームと平和観音菩薩像」

 作品は薄緑一色で炎上する原爆ドームを描いていますが、じっと目を凝らして見ると、観音像が浮かび上がってくる構図です。寄贈されるにあたって、粟井さんは「原爆記念の日に、広島市長が核廃絶と世界平和実現に向けて発せられる平和宣言の言葉に感動しています。私の絵に言葉はありませんが、作品が平和を、やすらぎを、いやしの心を伝えてくれることを念じています」と話されています。
 この作品の図柄は、平山郁夫画伯の代表作『広島生変図』(広島県立美術館所蔵)を彷彿させるものです。平山作品は赤い炎に包まれた広島の街並みに原爆ドームのシルエットが描かれ、天空高く不動明王が浮かぶ構図でした。粟井作品も見る人々に平和を訴える力になると期待したいものです。
 広島展は協会の心意気を示すものです。斎藤朝雄理事長は「水墨画を通して世界平和へ貢献しようとの理念に基づいての事業です。節目を迎えた協会にとっても新しい時代を画する活動となりました。ひとりでも多くの方に、水墨画の魅力に触れていただきたいものです」と抱負を語っています。

多様な日中作家の合同展

 協会は、日本の伝統文化の水墨画の普及と、共通の文化を有する中国との交流をはじめ海外での国際展などをめざし、1985年に結成されました。その主な活動が合同展です。私の高校時代までの同窓生が役員をしていることもあって2年前に神戸で開かれた展覧会場を初めてのぞきました。370点もの作品数に圧倒されると共に、水墨画への認識を新たにしたのでした。
 水墨画は中国・唐代中期に起こり、わが国には平安時代に伝わってきたとされています。室町時代に雪舟が出現し隆盛を極めました。水墨画といえば墨一色の濃淡で描かれ、山紫水明の風景画をイメージしていましたが、現代の水墨画はカラーフルな作品があれば、人物や物体など対象も様々で、抽象的な絵画もあり、その多様な表現に驚きました。

第22回日中水墨画合同展の会場風景
(東京都美術館で)

 今春、東京で開かれた第22回日中水墨画合同展では、日展や院展など水墨画界の重鎮らの有名作家の作品を含め400点を超える力作が展示されていました。斎藤理事長は『瞳』と題したヌードを描き、同窓生の西山悦兆副理事長(本名悦代)は『星の生まれるところ』と題した抽象作品を出品しておりました。このほかにも個性豊かな創造性のある作品が並び、とても見ごたえがありました。

斎藤理事長の作品「瞳」

西山副理事長の作品
「星の生まれるところ」

 日本で活躍されている在日中国人画家もこぞって出品。その中の一人、王子江さんは4−5年前に薬師寺でお会いして以来、年賀状や個展の案内をいただいており、『京都清水寺の雪景色』の作品は感慨深く拝見しました。今度の広島展にも100号を超す大作を特別出展します。
 合同展の授賞式で、日展の関口雄輝氏は作品を講評し「自然を見たつもり、よく知ってるつもり…つもりというものは何の役にもたたない。いつも心を新しく持って、その時、その場で心を無にして、心静かに対象をじっと見て、そこで自分が感じたロマンを絵にすれば、日本にも中国にもない水墨画が生まれます」と述べられました。

王子江さんの作品
「京都清水寺の雪景色」

 その夜、懇親会があり全国から100人以上の会員が集まり熱気に包まれました。在日中国人作家も多数出席し、反日暴動など忘れさせる友好ムードで互いに杯を交わしていました。水墨画の源流は中国にありますが、それぞれに独自の道を歩みながら、交流することの大切さを感じました。
 協会では合同展のほか、2000年にカナダ・トロント市で「カナダ水墨画交流展」、2003年にはイタリア・ローマで「日本現代墨絵展」を開催しています。西洋絵画発祥の地で墨絵はどのように理解されたのでしょうか。しかしこうした試みの積み重ねこそ国際交流への道です。


日中の画家たちが和気藹々の懇親会

墨絵の持つ魅力は限りなく

 日本古来の文化である墨絵は、雪舟を生み河合玉堂や横山大観らによって発展するものの、西洋から洋画が入り、次第に衰退したのです。近年、カルチャーセンターなどで水墨画教室が開講し、手軽に楽しめる絵画として注目されてきました。
 協会では合同展を毎年の東京に加え、2003年に神戸で、昨年は福岡で、今年も岩手でも開催し、会員の普及と活動基盤の拡充を図っています。と同時に各地で小中学校などの授業での水墨画の指導などにも取り組んでいます。今年は大観の母校である東京・文京区の湯島小学校で呉斉旺先生が6講座を担当しました。
 関西でも、知人で協会員の若狭若州(本名浪子)さんは会報の「水墨交流」に宝塚市立西谷小学校での水墨画体験学習について報告しています。歴史や濃淡の色出しや筆運びを教え、作品を描かせると、真剣に取り組み、のびのびとした作品に仕上がったそうです。書道と並び日本の伝統文化をまもるには、こうした幼児教育が重要だと思えます。

稲垣さんの作品「八月のZ」

 私の友人に独自の活動をしている水墨画家がいます。稲垣三郎さんは長年ジャーナリストを務めていましたが、1998年に退社し、本格的に画家活動を始めました。もともと東京芸術大学出身で休日などは絵筆を握っており、個展なども開いておりました。
 稲垣さんは墨絵の魅力について「私は1960年代から絵画制作を始め、80年ごろから墨が持つ大きな表現領域と抽象性に魅かれ、以降ほとんどの発表作品を水墨表現に依っています。墨による造形表現は東洋独特のもので大変味わい深いものです。しかしその美しさを引き出すのは容易ではありません。限りなく奥が深いのです」と語っています。


しらとり・まさお
朝日新聞社前企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を務める。編著書に『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)、『鳥取砂丘』『鳥取建築ノート』(いずれも富士出版)などがある。

新刊
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢しごと 三蔵法師を伝えて
発売日:2000年12月21日
定価:本体1,800円+税
発行:東方出版
内容:玄奘三蔵の心を21世紀へ伝えたいという一心で企画した展覧会。構想から閉幕に至るまで、筆者が取り組んだ「夢しごと」のルポルタージュ。

◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06−6257−3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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