| 新年、古都の2国立博で5展覧会 2025年1月1日号                       白鳥正夫                       新年を迎えましたが、ウクライナ戦争に続き中東ガザでの戦乱、さらに内戦や紛争も世界各地で越年しています。アメリカのトランプ政権が再始動し、フランスやルーマニア、韓国、わが日本も政局が流動的です。さらに地球規模での環境の汚染や気象変動も深刻な課題です。今年も不穏な年明けとなりましたが、「無事是吉祥」願いつつ、新年最初の寄稿です。お正月恒例の古都2国立博物館の5展覧会を紹介します。京都国立博物館は新春特集展示「京博のお正月 巳(み)づくし―干支を愛でる―」(2月2日まで)と、特集展示「新時代の山城鍛冶―三品派と堀川派―」、特別公開「名刀再臨 ─時代を超える優品たち─」(ともに3月23日まで)を開催中です。一方、奈良国立博物館では特別陳列「春日若宮おん祭の信仰と美術」と特集展示「新たに修理された文化財」(いずれも1月13日まで)が開かれています。古都の初詣も兼ねて出かけてみてはいかがでしょう。 京都国立博物館の新春特集展示「 巳(み)づくし―干支を愛でる―」蛇の存在、水の神や豊かな実りをもたらす神
 新春おなじみ、干支にちなんだ作品を紹介する展示を2016年から再スタートし、第10弾になります。同館では1901(明治34)年の丑年より10年間、干支にちなんだ展示が行われ、丑→寅→卯→辰→巳→午→未→申→酉→戌と続きました。 今年の干支は巳(み)、蛇。蛇は細長い体で手足が無くニュロニョロと動きます。時々古い皮膚を脱ぎ捨て脱皮します。この不思議な生き物を見て、昔の人たちは恐ろしく思いながらも、特別な力を持つ存在だと考えてきたようです。蛇は、水の神や、豊かな実りをもたらす神としても信じられてきました。この展示では、美術に登場するいろいろな蛇をご紹介しています。 主な展示品では、まだ文字がなかった大昔に作られた、ヘビの姿が表現された《有孔鍔(つば)付土器》や《深鉢形土器》(ともに縄文時代中期・紀元前3000~紀元前2000年、京都国立博物館)が出品されています。 
                        
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                             《有孔鍔(つば)付土器》
 (ともに縄文時代中期・紀元前3000~紀元前2000年、
 京都国立博物館)
 
 
 
 |   《草花獅子蛇文様金華布裂》(17世紀、インド、京都国立博物館)には、)には、ライオンを前に頭を持ち上げたコブラが文様として使われ、金があしらわれた豪華な布です。
 
                        
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                             《草花獅子蛇文様金華布裂》
 (17世紀、インド、京都国立博物館)
 
 
 
 |   重要文化財の《五百羅漢図のうち第17号》明兆筆(南北朝時代・至徳3年 1386年、京都・東福寺)は、襲ってきた大きな白いヘビの口の中で杖を立て座禅を組む羅漢の姿が描かれています。 
                        
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                             左端は《五百羅漢図のうち第17号》
 明兆筆(南北朝時代・至徳3年 1386年、京都・東福寺)
 などの展示風景
 
 
 
 |   このほか、《能装束 淡紅地鱗文摺箔》(江戸時代・19世紀、京都国立博物館)や、重要文化財の《十二類絵巻 三巻のうち巻上》(室町時代・15世紀)、《十二神将立像のうち巳神将立像》院敒作(鎌倉時代・正和4年 1315年、京都・大興寺)などが出品されています。 会場には作品を、見るのが楽しくなるワークシート(小学校低学年~)も用意されています。   京都国立博物館の特集展示「新時代の山城鍛冶―三品派と堀川派―」新刀期の二大流派の個性あふれる名刀を展示
 慶長年間(1596~1615)を境に、それ以前に作られた刀剣を「古刀」、それ以降に作られた刀剣を「新刀」と呼び習わしています。新刀は戦乱で荒廃した京都が復興する過程で生まれ、その後全国へと展開し、鎌倉時代に次ぐ刀剣の黄金期を迎えました。 慶長年間、全国から腕自慢の名工たちが京都に集まり、従来の山城鍛冶は一線を画す新しい鍛冶集団を形成します。中でもひと際存在感を放ったのが、美濃国関鍛冶の流れを汲む大道とその子らによる三品派と、日向国出身の国広を棟梁といた堀川派です。 今回の展示では、新刀期の山城(京)鍛冶の双璧をなす三品派と堀川派の名品《短刀 銘 伊賀守金道》(桃山時代・17世紀、淺田幸一氏寄贈、京都国立博物館)や《短刀 銘 日州住信濃守国広/天正十九年二月吉日》(桃山時代・天正19年 1591年、加藤静允氏寄贈、京都国立博物館)、《刀 銘 吉行(坂本龍馬所用)》(江戸時代・17世紀、坂本彌太郎氏寄贈、京都国立博物館)などが出品されています。いずれも華やかでエネルギッシュな新刀の魅力が鑑賞できます。    京都国立博物館の特別公開「名刀再臨 ─時代を超える優品たち─」知られざる重要文化財の《太刀 国安》初公開
 京都国立博物館はこの度、重要文化財の刀剣3口を含む貴重な文化財の寄贈と寄託を受けました。これら3口は、日本刀の主要産地である山城・備前・備中を代表する名工の作品であるにもかかわらず、いずれも半世紀近く一般に公開されたことのない知られざる優品です。 
                        
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                             「名刀再臨 ─時代を超える優品たち─」の展示風景
 
 
 
 |   とりわけ重要文化財の《太刀 銘国安》は、1942年の重要文化財(旧国宝)指定後80年にわたり、展示はおろか写真・押形も一般の目に触れる機会がなかった初公開の作品です。 
                        
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                             重要文化財《太刀 銘国安》
 (鎌倉時代・13世紀、1月26日まで展示)
 
 
 
 |   この再発見を記念し、新春の名品ギャラリーでの特別公開です。展示を通して国立博物館が行っている文化財保護活動と、国民の宝である文化財の素晴らしさ知る絶好の機会です。なお会期中、1口ずつ展示替えとなります。   奈良国立博物館の特別陳列「春日若宮おん祭の信仰と美術」国宝の《若宮御料古神宝類 金鶴及銀樹枝》など展示
 春日若宮おん祭は、一年に一度、摂社である春日若宮より御旅所(おたびしょ)の御假殿(おかりでん)に遷座(せんざ)される若宮神の前に、1日24時間にわたり芸能などを奉納するお祭りです。御旅所の若宮神のもとに祭礼参加者が詣でる風流行列や、田楽、舞楽、猿楽などの神事芸能が有名です。 平安時代の保延2年(1136年)に始まり、古儀の祭礼を守り続けて889年目の行事は年末に終えていますが、特別陳列では、おん祭の歴史と祭礼の様子を、絵画や文献史料、芸能資料等などを展示し、併せて春日信仰に関する美術を紹介する恒例の企画です。 展示は国宝・重要文化財それぞれ5件を含む43件です。「春日若宮の誕生」「若宮古神宝の世界」「春日若宮おん祭」の3章で構成されています。 主な出陳品を画像とともに掲載します。 国宝の《若宮御料古神宝類 金鶴及銀樹枝(きんつるおよびぎんじゅし)》(平安時代 12世紀、奈良・春日大社)は、1000歳の鶴が、洲浜に立つ松樹にとまる姿を表す豪華な飾物の部材。平安貴族の祝宴の席などで飾られた造物の唯一の現存品。端整な彫金技術と優美な曲線が見どころ。 
                        
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                             国宝《若宮御料古神宝類 金鶴及銀樹枝》
 (平安時代 12世紀、奈良・春日大社)
 
 
 
 |   《若宮御料古神宝類 平胡籙》復元模造(2018年、文化庁)は、文化庁の事業により、平安時代に作られた原品に忠実なかたちで復元された。紫檀や螺鈿、また白く輝く銀板と黒い文様の対比など、装飾効果の妙をよく表現している。錦や組紐、染革との取り合わせも艶やかである。 
                        
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                             《若宮御料古神宝類 平胡籙》復元模造
 (2018年、文化庁)
 
 
 
 |   重要文化財の《舞楽面 納曾利(なそり)》(12世紀、奈良・春日大社)は、龍や蛇をイメージする面で、大きな目に牙を持った怪異な容貌を表す。頬の肉付けや顔の皺など繊細な質感表現や的確な耳の造形から平安時代の制作と見られる。 
                        
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                             重要文化財《舞楽面 納曾利》
 (12世紀、奈良・春日大社)
 
 
 
 |   《春日若宮御祭礼絵巻》下巻(江戸時代 17世紀、奈良・春日大社)は、春日若宮おん祭の様子を描いた長大な絵巻。上巻には祭礼当日までの行事と遷幸の様を、中巻にはお渡り式の様子を、下巻には御旅所祭と翌日に行われる後宴能を描いている。 
                        
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                             《春日若宮御祭礼絵巻》下巻
 (江戸時代 17世紀、奈良・春日大社)
 
 
 
 |   重要文化財の《春日本迹(ほんじゃく)曼荼羅》(鎌倉時代 13~14世紀、奈良・宝山寺)は、春日社に祀られる10の祭神と、それぞれの本地仏を示す。着衣の金泥銀泥によるぼかしや精密な彩色文様が丁寧に施された優品です。 
                        
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                             重要文化財《春日本迹曼荼羅》
 (鎌倉時代 13~14世紀、奈良・宝山寺)
 
 
 
 |  奈良国立博物館の特集展示「新たに修理された文化財」《不動明王および二童子立像》などの文化財出陳
 長い歴史を経て今に伝わる文化財は、その多くが過去に人の手による修理を受けながら大切に保存されてきたものです。これらの文化財をさらに未来へと継承していくために、奈良国立博物館では、彫刻・絵画・書跡・工芸・考古の各分野の収蔵品(館蔵品・寄託品)について、毎年度計画的に修理を実施しています。 今回の特集展示では、前年度までに修理された文化財の中から選りすぐった文化財を展示公開するとともに、その修理内容についてパネルで解説しています。 主な出陳品に、奈良国立博物館所蔵の《不動明王および二童子立像》(不動明王:平安時代、二童子立像:江戸時代)や、ともに重要文化財の《十二天像》(鎌倉時代)《五大明王像》(鎌倉時代)などがあります。   
 
 
                         
                          |  | しらとり まさお 文化ジャーナリスト、民族藝術学会会員、関西ジャーナリズム研究会会員、朝日新聞社元企画委員
 1944年、新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、1970年に朝日新聞社入社。広島・和歌山両支局で記者、大阪本社整理部員。鳥取・金沢両支局長から本社企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を努める。この間、戦後50年企画、朝日新聞創刊120周年記念プロジェクト「シルクロード 三蔵法師の道」などに携わる。
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                              | 新刊
                                 | 「シルクロードを界遺産に」と、提唱したのは故平山郁夫さんだ。シルクロードの作品を数多く遺し、ユネスコ親善大使として文化財保存活動に邁進した。 
 社長業を投げ捨て僧侶になった小島康誉さんは、新疆ウイグル自治区の遺跡の修復や調査支援を30年も続けている。
 
 シベリアに抑留された体験を持つ加藤九祚さんは90歳を超えて、仏教遺跡の発掘ロマンを持続する。
 
 玄奘の意志に導かれアフガン往還半世紀になる前田耕作さんは、悲劇のバーミヤンの再生に情熱を燃やす。
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                              | シルクロードの現代日本人列伝 ―彼らはなぜ、文化財保護に懸けるのか?
 世界文化遺産登録記念出版
 発売日:2014年10月25日
 定価:1,620円(税込)
 発行:三五館
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                              |  | 「反戦」と「老い」と「性」を描いた新藤監督への鎮魂のオマージュ 
 第一章 戦争を許さず人間愛の映画魂
 第二章 「太陽はのぼるか」の全文公開
 第三章 生きているかぎり生きぬきたい
 
 人生の「夢」を持ち続け、100歳の生涯を貫いた新藤監督。その「夢」に交差した著者に、50作目の新藤監督の「夢」が遺された。幻の創作ノートは、朝日新聞社時代に映画製作を企画した際に新藤監督から託された。一周忌を機に、全文を公開し、亡き監督を追悼し、その「夢」を伝える。
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                              | 新藤兼人、未完映画の精神 幻の創作ノート 「太陽はのぼるか」
 発売日:2013年5月29日
 定価:1,575円(税込)
 発行:三五館
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                          | 
                            
                              |  | 第一章 アートを支え伝える 第二章 多種多彩、百花繚乱の展覧会
 第三章 アーティストの精神と挑戦
 第四章 アーティストの精神と挑戦
 第五章 味わい深い日本の作家
 第六章 展覧会、新たな潮流
 第七章 「美」と世界遺産を巡る旅
 第八章 美術館の役割とアートの展開
 
 新聞社の企画事業に長年かかわり、その後も文化ジャ-ナリスとして追跡する筆者が、美術館や展覧会の現況や課題、作家の精神や鑑賞のあり方、さらに世界の美術紀行まで幅広く報告する
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                              | 展覧会が10倍楽しくなる! アート鑑賞の玉手箱
 発売日:2013年4月10日
 定価:2,415円(税込)
 発行:梧桐書院
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                          | 
                            
                              |  | ・国家破綻危機のギリシャから ・「絆」によって蘇ったベトナム絹絵 ・平山郁夫が提唱した文化財赤十字構想
 ・中山恭子提言「文化のプラットホーム」
 ・岩城宏之が創った「おらが街のオケ」
 ・立松和平の遺志,知床に根づく共生の心
 ・別子銅山の産業遺産活かしまちづくり
 
 「文化とは生き方や生き様そのものだ」と 説く著者が、平山郁夫、中山恭子氏らの文 化活動から、金沢の一市民によるベトナム 絹絵修復プロジェクトまで、有名無名を問 わず文化の担い手たちの現場に肉薄、その ドラマを活写。文化の現場レポートから、 3.11以降の「文化」の意味合いを考える。
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                              | ベトナム絹絵を蘇らせた日本人 「文化」を紡ぎ、伝える物語
 発売日:2012年5月5日
 定価:1,680円(税込)
 発行:三五館
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                          | 
                            
                              |  | 序 章 国境を超えて心の「家族」がいる 第一章 各界識者と「共生」を語る
 第二章 変容する共産・社会主義
 世界の「共生」
 第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
 広がる「共生」の輪
 
 私たちは誰しも一人では生きていけな
 いことをわかっていながら、家族や地域、国家 や国際社会のことに目を向けなくなっている。「人のきずなの大切さと、未来への視点」自らの体験を通じた提言としてまとめた。これからの生き方を考える何がしかのヒントになればと願う。
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                              | 無常のわかる年代の、あなたへ 発売日:2008年3月17日
 定価:1,680円(税込)
 発行:三五館
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                          | 
                            
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                              | アートの舞台裏へ 発売日:2007年11月1日
 定価:1,800円(税込)
 発行:梧桐書院
 内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。
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                              | アートへの招待状 発売日:2005年12月20日
 定価:1,800円(税込)
 発行:梧桐書院
 内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
 (木村重信さんの序文より)
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                                | 「大人の旅」心得帖 発売日:2004年12月1日
 定価:本体1,300円+税
 発行:三五館
 内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
 高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
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                                | 「文化」は生きる「力」だ! 発売日:2003年11月19日
 定価:本体1400円+税
 発行:三五館
 内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
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                                | 夢をつむぐ人々 発売日:2002年7月5日
 定価:本体1,500円+税
 発行:東方出版
 内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
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                                | 夢追いびとのための不安と決断 発売日:2006年4月24日
 定価:1,400円+税
 発行:三五館
 内容:「本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、実地踏査にもとづいて報告されている」と山折哲雄先生が序文を寄せている。
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                          |  |  |  ◆本の購入に関するお問い合わせ先
 三五館(03-3226-0035) http://www.sangokan.com/
 東方出版(06-6257-3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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