コシノジュンコとMUGA、注目の2企画展

2023年12月1日号

白鳥正夫

ファッションとアーバン・アート、注目の2つの企画展が大阪と京都で展開中です。世界的ファッションデザイナーであるコシノジュンコの過去最大規模の展覧会「コシノジュンコ 原点から現点」が、あべのハルカス美術館で新年1月21日まで開催されています。一方、ヨーロッパ最大級のアーバン・アート作品を所蔵する美術館「MUCA」のコレクション「MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art ~バンクシーからカウズまで~」が、京都市京セラ美術館・新館 東山キューブで新年1月8日まで開かれています。いずれも日頃お目にかかれない貴重な作品が集結する年末年始の企画展で、鑑賞する絶好の機会です。

あべのハルカス美術館の「コシノジュンコ 原点から現点」
斬新な衣装やデザイン画・映像など約200点

画家を目指した高校時代、激動の時代の日本を、
友人達と切磋琢磨し世界へと飛び出した60~70年代、
“対極”という私自身の体験から生まれたデザインコンセプトとの出会い、
ゆるぎない独創的意志の表現はコシノジュンコのデザインの美の原点でした。
人との出会い、新たなモノ・コトへの挑戦、
デザイナーとしての原点が、現点から未来へと続きます。

展覧会の図録の巻頭に寄せた、コシノジュンコの文章です。今や世界的なファッションデザイナーのコシノジュンコの過去最大規模の展覧会の趣旨を伝えています。その創造の原点である高校時代のデッサンから、「対極」というデザインコンセプトを通じて創出した世界観、琳派や能との饗宴など、コシノが手がけた衣装やデザイン画をはじめ、写真パネルや演出映像など約200点を展示し、現在までの活動の全貌を紹介しています。


プレス内覧会で説明するコシノジュンコ


コシノジュンコ(本名:鈴木順子)は1939年、大阪の・岸和田生まれです。父は紳士服の仕立て職人、母も洋装店を営んでいました。ファッションデザイナーの姉コシノヒロコ(小篠弘子)、妹コシノミチコ(小篠美智子)とともに「コシノ三姉妹」として知られています。夫の鈴木弘之は「JUNKO KOSHINO株式会社」の代表取締役も務める一方で写真家としても活躍しています。

服飾分野における卓越した業績と世界のファッション界に対する貢献から、2017年に文化功労者、2021年にフランス政府レジオンドヌール勲章シュヴァリエを受章。2022年には旭日中綬章を受章しています。

コシノジュンコは、1960年に新人デザイナーの登竜門とされる装苑賞を最年少で受賞、以後東京を拠点にファッションデザイナーとしての活動をスタートさせます。世界各地でショーを開催し高い評価を得る一方、近年では服飾デザインの領域を超えた新たな境地を切り拓いています。


装苑賞受賞作品


今回の展覧会では、初期の装苑賞を受賞した衣装をはじめ、1970年の大阪万博のパビリオンのペプシコーラ館・タカラ館・生活産業館のユニホームの3点、和太鼓エンターテインメント集団「DRUM TAO」の衣装など約 100 着が出品されています。


大阪万博のパビリオンのユニホーム


またコシノは、1978 年にパリコレクションの参加を果たして以降、北京、ニューヨークのメトロポリタン美術館、キューバなど世界各地でショーを開催し国内外で高い評価を得てきました。モードの先端を走り新たな創造を繰り広げてきた衣装とともにショーの映像によって、来館者はまるでショーの会場にいるような臨場感を味わうことができます。世界を魅了した躍動感あふれるコシノの世界を楽しめます。
 
1980 年代以降、コシノは「アール・フュチュ―ル (未来の芸術)」という表現に取り組み始めます。これは、地球やそこに生きる人間、太陽、月、大気など宇宙を構成するすべてのものを表現しようとする壮大な試みでした。これらを表すものとして生みだされた「対極」というコンセプトは、今日に至るまでコシノのデザインの根幹を成し、新たな創造を続ける重要な要素となっています。
 
「対極」は、ファッション以外の分野においても提案されています。「切溜 ( きりだめ )」という漆作品は、赤と黒という色づかいで「昼と夜」いう対極に位置するものを表現するだけでなく、漆という素材が持つ日本の伝統や品位を、現代的な生活の中に落としこむ発想から生まれたもので、「伝統とモダン」の融合も表現しています。


「対極」の展示コーナー


2015 年、京都国立博物館 平成知新館で特別展覧会「琳派誕生400 年記念 琳派 京を彩る」が開催されていますが、オープニングイベントとして「能とモード」をテーマにファッションショーを行いました。コシノは、京友禅や西陣織の伝統的な技術を活かしながら、独特の感性で着物やドレスをデザイン、さらに衣装をまとったモデルたちが、能のお囃子に合わせランウェイをすり足で歩くというこれまでにない演出を提案し観客を驚かせました。


躍動感あふれる展示風景



DRUM TAO “現代甲冑”衣装


これ以降もコシノは自身のデザインをとおして伝統を守りながら新たな発想で日本文化の魅力を伝える活動を国内外に発信し続けています。そして、今もなお新たな創造に挑み続けるコシノの世界は、「現点」から「未来」へと続いていきます。

コシノはプレス内覧会で,「私、ファッションデザイナーという肩書きがあまり好きではないんです。ですから、自分で勝手に『ファッション』をとって、いろんなデザインをしたいという趣旨でやってきました。この展示はファッションが中心で、年齢問わずいろんな方に見ていただいて、そこで一つでも感じるものがあれば、将来の日本に繋がるのではないでしょうか」と展覧会開催の思いを語っていました。


琳派コレクション



壮観、斬新な衣装を着装したマネキンの列



「能とモード」の衣装


京都市京セラ美術館・新館 東山キューブの「MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art ~バンクシーからカウズまで~」
「少女と風船」など話題作約70点一堂に


アーバン・アートと言えば、違法であるはずの落書きのような作品です。ところが徐々に公衆から受け入れられ、オークションで高額商品となったものの裁断されたバンクシーの《愛はゴミ箱の中に》で一躍、世界の耳目を集めました。今回の展覧会では、バンクシーをはじめ、カウズ、バリー・マッギーら10名の作家にスポットを当て、日本初公開の作品を含む、MUCA所蔵の約70点が出展されています。

そもそもアーバン・アートとは、ストリート・アートとグラフィティを連結した名称で、しばしば都市建築や現代の都市生活様式に触発され、都市部で発達したあらゆる視覚芸術を要約するときに使われています。20世紀から21世紀にかけて世界各国の都市を舞台に発表されてきました。
 
都市空間から生まれ、言語、文化、宗教、出身地などのあらゆる壁や境界を越えた視点から世界を見つめるアーティストたちによって創られてきたのです。彼らの作品は、ルールや規則に縛られることなく、社会の不公正をはじめ、資本主義、人種差別といった様々な課題をテーマに、広く公衆に目を向けさせ、考えることを促します。
 
MUCAは、ミュンヘンの中心部、マリエン広場からすぐの変電所跡地に、ドイツ初のアーバン・アートと現代アートに特化した美術館として開館。開館以来、この分野での作品収集の第一人者として知られ、 1200点以上のコレクションを誇っています。都市の景観を作品の一部として主に収蔵し、ポップ・アートからニューリアリズムまで、都市環境の中の芸術、抽象絵画、社会・政治問題など多様なテーマを扱い、25年以上にわたって影響力を持っています。

出展アーティストは、BANKSY|バンクシー、KAWS|カウズ、BARRY MCGEE|バリー・マッギー、OS GEMEOS|オス・ジェメオス、INVADER|インベーダー、SHEPARD FAIREY|  シェパード・フェアリー、RICHARD HAMBLETON|リチャード・ハンブルトン、JR|ジェイアール、SWOON|スウーン、VHILS|ヴィルズの10名。

主なアーティストの経歴と出品作品を、プレスリリースを参考に画像とともに取り上げます。

バンクシーは1974年生まれ、イギリス・ブリストル出身。ストリート・アーティスト、映画監督、画家など多方面で活動していますが、その正体は不明のままです。印象的でユーモラスなモチーフと、時に大きなキャッチコピーが添えられるステンシル・アートが有名で、戦争、資本主義、支配層による権力の乱用に反対するメッセージを含むものが多数あります。
絵画作品の《Girl With Balloon》「少女と風船」(2004年)ほか、《Are You Using That Chair?》「その椅子使ってますか?」(2005年)、彫刻作品の《Araiel》「アリエル」(2017年)など興味深く見ました。


BANKSY《Girl With Balloon》
(2004年)
Photo by © MUCA / wunderland media



BANKSY《Are You Using That Chair?》
(2005年)



BANKSY《Araiel》
(2017年)


カウズは1974年生まれ、アメリカ・ニュージャージー州ジャージーシティ出身。既存のキャラクターを再解釈してリデザインするなど、アートと商業の境界を曖昧にするような作品で知られています。バツ印の目が特徴的なコンパニオンのシリーズ]《4ft Companion [Dissected Brown]》「4フィートのコンパニオン[解剖されたブラウン版]」(2009年)は特に人気が高く、その悲しげな表情は、永遠に陽気なミッキーマウスに対するアンチヒーローと見ることもできる。ほかに《Ad Disruption [Calvin Klein]》「広告への悪戯[カルバン・クライン]」(1997年)も展示されています。


KAWS《4ft Companion [Dissected Brown]》
(2009年)
Photo by © MUCA / wunderland media


バリー・マッギーは1966年生まれ、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ出身。カラーブロックやパターンを組み合わせるユニークな手法で絵画やインスタレーション作品を発表。《Untitled》「無題」(2019年)などマッギーの作品は、都市の人々が毎日目にする広告で感覚過多になる問題を問い、世界中のストリート・アーティストやアーバン・アーティストに影響を与えています。


BARRY MCGEE《Untitled》
(2019年)
Photo by © MUCA / wunderland media


オス・ジェメオスは1974年生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。「オス・ジェメオス」はポルトガル語で「双子」を意味し、一卵性双生児のグスタボとオターヴィオ・ パンドルフォの2人で活動しています。展覧会会場に楽器を置き、来場者が自由に演奏するというような相互的なインスタレーションでも知られており、観客が実際に中に入ることができる彫刻作品も多くあります。《Rhina》「リーナ」(2010年)などを展示しています。


OS GÊMEOS《Rhina》
(2010年)
Photo by © MUCA / wunderland media


インベーダーは1969年生まれ、フランス・パリ出身。1970〜80年代のビデオゲームに影響を受け、世界をめぐり都市の壁にピクセルアートを制作するストリート・アーティストです。1990年代からフランス国内の30以上の都市でモザイク・アートを制作。文化的、歴史的に重要とされる場所で定期的に作品を発表。《Rubik Arrested Sid Vicious》「ルービックに捕まったシド・ヴィシャス」(2007年)などユニークな作品を発表しています。


INVADER《Rubik Arrested Sid Vicious》
(2007年)
Photo by © MUCA / wunderland media





しらとり まさお
文化ジャーナリスト、民族藝術学会会員、関西ジャーナリズム研究会会員、朝日新聞社元企画委員
1944年、新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、1970年に朝日新聞社入社。広島・和歌山両支局で記者、大阪本社整理部員。鳥取・金沢両支局長から本社企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を努める。この間、戦後50年企画、朝日新聞創刊120周年記念プロジェクト「シルクロード 三蔵法師の道」などに携わる。

新刊
「シルクロードを界遺産に」と、提唱したのは故平山郁夫さんだ。シルクロードの作品を数多く遺し、ユネスコ親善大使として文化財保存活動に邁進した。

社長業を投げ捨て僧侶になった小島康誉さんは、新疆ウイグル自治区の遺跡の修復や調査支援を30年も続けている。

シベリアに抑留された体験を持つ加藤九祚さんは90歳を超えて、仏教遺跡の発掘ロマンを持続する。

玄奘の意志に導かれアフガン往還半世紀になる前田耕作さんは、悲劇のバーミヤンの再生に情熱を燃やす。
シルクロードの現代日本人列伝
―彼らはなぜ、文化財保護に懸けるのか?

世界文化遺産登録記念出版
発売日:2014年10月25日
定価:1,620円(税込)
発行:三五館
「反戦」と「老い」と「性」を描いた新藤監督への鎮魂のオマージュ

第一章 戦争を許さず人間愛の映画魂
第二章 「太陽はのぼるか」の全文公開
第三章 生きているかぎり生きぬきたい

人生の「夢」を持ち続け、100歳の生涯を貫いた新藤監督。その「夢」に交差した著者に、50作目の新藤監督の「夢」が遺された。幻の創作ノートは、朝日新聞社時代に映画製作を企画した際に新藤監督から託された。一周忌を機に、全文を公開し、亡き監督を追悼し、その「夢」を伝える。
新藤兼人、未完映画の精神 幻の創作ノート
「太陽はのぼるか」

発売日:2013年5月29日
定価:1,575円(税込)
発行:三五館
第一章 アートを支え伝える
第二章 多種多彩、百花繚乱の展覧会
第三章 アーティストの精神と挑戦
第四章 アーティストの精神と挑戦
第五章 味わい深い日本の作家
第六章 展覧会、新たな潮流
第七章 「美」と世界遺産を巡る旅
第八章 美術館の役割とアートの展開

新聞社の企画事業に長年かかわり、その後も文化ジャ-ナリスとして追跡する筆者が、美術館や展覧会の現況や課題、作家の精神や鑑賞のあり方、さらに世界の美術紀行まで幅広く報告する
展覧会が10倍楽しくなる!
アート鑑賞の玉手箱

発売日:2013年4月10日
定価:2,415円(税込)
発行:梧桐書院
・国家破綻危機のギリシャから
・「絆」によって蘇ったベトナム絹絵 ・平山郁夫が提唱した文化財赤十字構想
・中山恭子提言「文化のプラットホーム」
・岩城宏之が創った「おらが街のオケ」
・立松和平の遺志,知床に根づく共生の心
・別子銅山の産業遺産活かしまちづくり

「文化とは生き方や生き様そのものだ」と 説く著者が、平山郁夫、中山恭子氏らの文 化活動から、金沢の一市民によるベトナム 絹絵修復プロジェクトまで、有名無名を問 わず文化の担い手たちの現場に肉薄、その ドラマを活写。文化の現場レポートから、 3.11以降の「文化」の意味合いを考える。
ベトナム絹絵を蘇らせた日本人
「文化」を紡ぎ、伝える物語

発売日:2012年5月5日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
序 章 国境を超えて心の「家族」がいる
第一章 各界識者と「共生」を語る
第二章 変容する共産・社会主義
     世界の「共生」
第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
    広がる「共生」の輪

私たちは誰しも一人では生きていけな
いことをわかっていながら、家族や地域、国家 や国際社会のことに目を向けなくなっている。「人のきずなの大切さと、未来への視点」自らの体験を通じた提言としてまとめた。これからの生き方を考える何がしかのヒントになればと願う。
無常のわかる年代の、あなたへ
発売日:2008年3月17日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
アートの舞台裏へ
発売日:2007年11月1日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。
アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
(木村重信さんの序文より)
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
内容:「本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、実地踏査にもとづいて報告されている」と山折哲雄先生が序文を寄せている。
   

◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03-3226-0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06-6257-3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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