平山芸術 新たな展開「洛中洛外」

2005年2月5日号

白鳥正夫

 平山画伯の新作69点を一挙に公開した「平成の洛中洛外 平山郁夫展」が3日から15日まで大丸京都店の大丸ミュージアムKYOTOで開催されています。変わりゆく京都の街並みを、平山さんは芸術家の眼差しでとらえています。日本文化の源流をなす「京都の美」を見直す機会でもあります。

画家としての宿題だったテーマ

 平山画伯といえば、日本画壇の重鎮であるばかりでなく、ユネスコ親善大使として国際的な活躍で知られています。私が朝日新聞社の大阪企画部次長に転任直後の1993年11月、アンコールワットの保存救済のための国際シンポジウムにかかわり、画伯に記念講演をしていただいた時に面識を得ました。

「平成の洛中洛外」を描く平山郁夫画伯
(展覧会図録より)


 その後1995年になって「日本の美を訪ねて 平山郁夫展」が全国を巡回しましたが、私も担当デスクとして広島や高知、高松などに出向きました。また「心に描く南京城 平山郁夫展」が続き、私が企画した「ヒロシマ 21世紀へのメッセージ展」に画伯の傑作「広島生変図」(広島県立美術館所蔵)を特別出品していただくなど10年余にわたって、私の仕事に大きな影響を及ぼしたのでした。
 とりわけ準備期間も入れ4年がかりとなった朝日新聞創刊120周年記念企画「シルクロード 三蔵法師の道」プロジェクトでは、実施した展覧会、学術調査、シンポジウムなど全般にわたって、画伯の指導を仰いだのです。鎌倉の自宅にも何度となくお訪ねしましたが、いつも穏やかな表情で応対していただきました。
 2003年に私が執筆した『「文化」は生きる「力」だ!』では、超多忙な中、長時間のインタビューに応じていただきましたが、アトリエでは今回の展覧会に出品する「平成の洛中洛外」の作品に取り組んでいたのでした。その年の暮れ、東京芸術大学の学長室で懇談した際に「次の目標は洛中洛外です。これは画家としてやるべき私の宿題です」と語っていたのが印象的でした。

「京都は日本の美の芸術作品」

「平成洛中洛外図」(左隻、二条城)

「平成洛中洛外図」(右隻、京都御所)

 玄奘三蔵の足跡をたどり、シルクロードを踏破してきた画伯が、足元の日本の美の源流に目を向けたのです。私は1月末、東京日本橋の三越本店でひと足早く待望の展覧会を見てきました。全体は二つの屏風「平成の洛中洛外図」と本画37点、素描30点から構成されていました。
 メイン作品である「平成の洛中洛外図」は、左右とも四曲一双で183×362センチの大作です。それぞれが第88回と第89回の院展に出品されており、すでに拝見していましたが、他の作品も合わせ一堂に展示されると、まさに「平山芸術の精華」というべき世界に圧倒されます。
 まず洛中洛外図ですが、2003−04年にかけて制作していますが、右隻に京都御所、左隻に二条城を画面中央に描いています。日本文化の象徴としての京都御所、権力の象徴としての二条城を対の形で配しています。それはかつて対立した公家と武家の文化が残した「美の遺産」でもあったわけです。画伯はヘリに乗って京都の街並みをスケッチし、鳥瞰図的に描いたのです。
 その大作屏風を中尊と位置づけ、左右の脇侍として宇治の平等院と、日野の法界寺を、それぞれの本堂の阿弥陀如来とともに描いた作品を配し、一連の作品の精神性を象徴させています。また両端の美として金閣寺と銀閣寺も取り上げています。そうした建築物や名所旧跡にとどまらず、その周囲で営まれる庶民の生活にも眼が注がれているのです。
 99歳でなお美を織る「西陣山口翁」や、今ではほとんど見かけなくなった働く女性のイメージとして「浄花 白川女母娘」なども描いています。さらに祇園祭に沸く町衆や、鞍馬の火祭りに向かう若者の姿もとらえています。表面的な美しさを支えてきた人々の息遣いが垣間見れる作品群は、さすがにここ数年エネルギーを注いできた迫力を感じさせます。まさに平山芸術の真骨頂であり新境地です。
 画伯は展覧会の図録に「京の神社仏閣を歩いて感じることは、どこもその自然を巧みに取り入れて、見事に一体化していることです。私は、京の都は日本民族が1200年の時間をかけて創りあげた芸術作品だと思うのです。この地を都と定められた桓武帝のお目は、誠に高かった。京都は世界に誇れる美しい都です」と端的に記しています。
 日本文化の研究で知られるドナルド・キーン氏は新美術新聞に「日本文化の心なす京都の美を見事に再現した作品」と一文を寄せています。また図録で、美術評論家の尾崎正明さんは「平山郁夫にとって、風景もまた歴史であった。いかに美しい風景でも、そこに歴史がなければ興味はもてない。(中略)風景はただみるものでなく、そこにかつて生き、また現在も生きている人々の姿から、悠に続く人間の営みの真実をみるものであった」と評しています。

「浄土幻想 日野法界寺」100号
「浄土幻想 宇治平等院」100号

「静夜鹿苑寺金閣」50号
「慈照寺銀閣」50号

「西陣山口翁(99歳)」30号
「浄花 白川女母娘」30号
(いずれも展覧会図録より)

 

世界遺産を後世に伝える使命

 平山画伯は、薬師寺玄奘三蔵院に「大唐西域壁画」を奉納しました。2000年大晦日に最後の一筆が入れられ21世紀を期して公開されたのでした。玄奘求法の旅を7場面、13面にわたって描いた延長49メートルの超大作です。画伯にとっては出世作となった「仏教伝来」以来の総仕上げともいえたのです。
 私が初めて鎌倉の平山邸を訪れた1997年は、この大壁画に取り組まれていたのでした。私が進めていた「三蔵法師の道」プロジェクトに理解を示され「大いにやりなさい。全面的に応援します」と励まされたのでした。画伯は広島で学徒動員中に被爆されており、私の記者の出発地が広島であったことなどもあって、その画業に関心と敬意を寄せてきたのです。
 2004年11月、私の郷里の愛媛県新居浜市の文化協会からの要請で、平山郁夫講演会を企画し、実現できたのでした。「文化財赤十字の意義」と題した講演の後、小生との対談が組まれました。その中でも画伯の一貫した絵画創作への姿勢が語られ、今回の「平成の洛中洛外」への意気込みを聞くことができたのでした。
 平山画伯は「古き良き、京の美を次の世代に無事、譲りわたしたい。私はそんな気持ちをこめて絵筆を執りました」と語っています。次なる目標は「世界の文化遺産を描くことです」との抱負でした。今後とも画伯のメッセージを見続け、しっかりと受け止めたいと思います。

平山画伯と対談する筆者

しらとり・まさお
朝日新聞社前企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を務める。編著書に『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)、『鳥取砂丘』『鳥取建築ノート』(いずれも富士出版)などがある。

新刊
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢しごと 三蔵法師を伝えて
発売日:2000年12月21日
定価:本体1,800円+税
発行:東方出版
内容:玄奘三蔵の心を21世紀へ伝えたいという一心で企画した展覧会。構想から閉幕に至るまで、筆者が取り組んだ「夢しごと」のルポルタージュ。

◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06−6257−3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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