お正月に楽しめる関西の展覧会

2019年1月1日号

白鳥正夫

亥年、平成最後の年明けです。このサイトに寄稿を始めて17年目になります。月1回の更新ですので、できるだけ多くの展覧会を紹介しようと心がけています。今回もお正月に楽しめる関西の展覧会を取り上げました。京都国立博物館で「京博のお正月 亥づくし―干支を愛でる」と「京の冬景色」の特集展示が1月27日まで開催中です。同じく新春向けの「京都市美術館所蔵品展 花鳥風月」は美術館「えき」KYOTOで、奈良国立博物館でも恒例の特別陳列「おん祭と春日信仰の美術」がそれぞれ1月20日まで開かれています。神戸のBBプラザ美術館では「明治から平成にみるコレクションのかたち」が2月11日まで催されています。平成の後の新元号がどうなるか、大きな時代の転換期、お正月は心穏やかに美術鑑賞でくつろぐのも一興です。

京都国立博物館の新春特集展示「京博のお正月 亥づくし―干支を愛でる」「京の冬景色」など
初めて亥をテーマに、置物や図巻・絵巻も


《白釉猪》
(中国・唐時代、8世紀、
岡村健守氏寄贈、
京都国立博物館)




《花卉鳥獣図巻(巻上部分)》
(江戸〜明治時代、19世紀、
京都国立博物館)


干支・亥をテーマにした展示です。京都国立博物館では、干支にちなんだ作品を紹介する特集陳列を2016年からスタートし、第4弾になります。同館では1901(明治34)年の丑年より10年間、干支にちなんだ展示が行われ、丑→寅→卯→辰→巳→午→未→申→酉→戌と続きましたが、亥をテーマとする展示は初めてということです。

猪と言えば、「猪突猛進」の言葉が思いつきます。毎年のように山から市街に出没し、畑の作物や人身被害などのニュースも耳にし、評判は良くありません。しかし《白釉猪》(中国・唐時代、8世紀、岡村健守氏寄贈、京都国立博物館)は臥した姿で、なんとも穏やかでユーモアさえ感じさせる作品です。与謝蕪村は「獣の名を三つ入れて詠め」と言われ、「猪の狸寝入りや、鹿の声」の句を残しています。

主な展示品に、他の獣とともに描かれた国井応文、望月玉泉合筆による《花卉鳥獣図巻(巻上部分)》(江戸〜明治時代、19世紀、京都国立博物館)や、森狙仙筆の《雪中三獣図襖》(江戸時代、19世紀、京都・廣誠院)、重要文化財の《十二類絵巻(3巻のうち巻上)》(室町時代、15世紀)があります。

「京の冬景色」の展示では、四季折々の美しい京都に雪化粧で一際魅力的に描かれた名品が並んでいます。塩川文鱗筆による《平等院雪景図屏風》(江戸時代、19世紀、京都国立博物館)や、国宝の《法然上人絵伝 巻四十二》(鎌倉時代、14世紀、京都・知恩院)など見ごたえがあります。


塩川文鱗《平等院雪景図屏風》
(江戸時代、19世紀、京都国立博物館)


 


《粉彩松鹿図瓶
大清乾隆年製銘》
(中国・清時代、18世紀、
京都国立博物館)



さらに京都国立博物館では、《美麗を極める中国陶磁》(2月3日まで)も同時開催されています。中国美術の蒐集家の松井宏次氏からの寄贈作品の全容を紹介するもので、《粉彩松鹿図瓶 大清乾隆年製銘》(中国・清時代、18世紀、京都国立博物館)などの清朝陶磁をはじめ、青銅器や金属工芸、彫刻なども展示されています。

 

 

美術館「えき」KYOTOの「京都市美術館所蔵品展 花鳥風月」
堂本印象や竹内栖鳳らの絵画や陶芸など36点

2019年度中のリニューアルオープンに向け、現在本館が改装中の京都市美術館では、2018年に続き、所蔵コレクションを“出張展示”しています。今回は新春にふさわしく花鳥風月をテーマに日本画、洋画、工芸作品36点が出品されます。


堂本印象《松楓和鶴》右隻(1939年) 
以下3点は京都市美術館所蔵





竹内栖鳳
《驟雨一過》
(1935年)



京都市美術館は1933年に設立された歴史ある大規模な公立美術館です。所蔵のコレクションは近現代の日本画・洋画・彫刻・工芸・書・版画など多岐にわたり約3400点に及びます。

主な出品作品では、堂本印象の《松楓和鶴》 (1939年)をはじめ、竹内栖鳳の《驟雨一過》(1935年)、金島桂華の《叢》(1918年)、富岡鉄斎の《雪月花茶詩書》(1906−16年)、鈴木治の《風ノ口笛》(1989年)など。いずれも京都市美術館所蔵です。

 

 


金島桂華《叢》
(1918年)




奈良国立博物館の特別陳列「おん祭と春日信仰の美術―特集 大宿所―」
祭礼の様子を伝える絵巻や文献史料


《春日若宮御祭礼絵巻 中巻》
(江戸時代、17世紀、春日大社)



《春日鹿曼荼羅》
(室町時代、1551年、
奈良・大福寺)



春日若宮おん祭は、春日大社の摂社(せっしゃ)である若宮社の祭礼です。一年に一度、常の住まいを離れて御旅所(おたびしょ)の御假殿(おかりでん)に遷座(せんざ)される若宮神の前に、芸能などを奉納します。1135(長承4)年の若宮社御遷座を承け、翌年に始まったとされ、1878(明治11)年からは毎年12月17日に営まれています。

883年目の行事はすでに終えていますが、特別陳列は、おん祭の歴史と祭礼の様子を伝える絵画や文献史料などを展示し、併せて春日信仰に関する美術を紹介する恒例の企画です。今回は華やかなお渡り式を描いた絵巻や祭礼に参加した大和士(やまとざむらい)〔願主人〕(がんしゅにん)〕の参籠所である大宿所や、祭礼でにぎわう江戸時代の奈良町の様子も紹介しています。

主な出陳品として、《春日若宮御祭礼絵巻 中巻》(江戸時代、17世紀、春日大社)は、おん祭の様子を描いた三巻からなる長大な絵巻の二巻目です。お渡り式(風流行列)の始終や、「影向(ようごう)の松」の前で行われる松の下式や、その側で祭礼を見守る奈良奉行所の役人たちの様子を丹念に描いています。

《春日鹿曼荼羅》(室町時代、1551年、奈良・大福寺)は、春日大社の神体山である御蓋(みかさ)山を背景に神鹿(しんろく)が雲に乗り境内に飛来する近景を大きく描いています。鞍から伸びる榊(さかき)の枝上には金色の円相内に蓮華坐上の本地仏(ほんじぶつ)五尊がえがかれています。同種の図柄の作品が4点展示されています。


《春日御祭次第》
(江戸時代、1732年、 郡山城史跡・柳沢文庫保存会)



《献菓子台》
(明治時代、19世紀)

《春日御祭次第》(江戸時代、1732年、郡山城史跡・柳沢文庫保存会)は、二巻からなる絵巻。上巻には大宿所での御湯立にはじまり、田楽能、お旅頃の光景に続き、お渡り式が描かれています。《献菓子台》(明治時代、19世紀)は、大宿所の神前に置かれる大型の威儀物(飾り物)です。この上に餅や蜜柑、芋、干柿などを積み、さらに松葉を盛り上げ、御幣などを挿しました。全体で2メートルを超えたそうです。

このほか、《大宿所春日若宮祭式事件并(ならびに)品書》(明治3年、1870年、春日大社)、《大宿所日記覚帳》(江戸時代、1715年、個人蔵)、《春日宮曼荼羅》(鎌倉時代、14世紀、個人蔵)、《春日赤童子像》(江戸時代、18世紀、伝香寺)などが展示されています。

BBプラザ美術館の「明治から平成にみるコレクションのかたち」

美術作品の変遷を通じ、時代を振り返る  

2018年は明治改元から150年でした。維新以後、「文明開化」政策で、生活文化の西欧化が進められた明治。大正期には「大正デモクラシー」と呼ばれた自由主義的運動が社会に広がりました。戦争の世紀ともいわれた激動の昭和でしたが、戦後復興はめざましいものでした。情報通信革新の時代を迎えましたが、地球規模でひずみも生じた平成。そして新年5月1日以降に新元号に移行します。  

このような時代の流れは、美術界においても大きな影響を及ぼしました。今回の展覧会は、明治期を〈近代美術の萌芽と成立〉、大正期を〈近代美術の展開〉、昭和期を〈現代美術の展開〉、平成期を〈現代美術の多様化〉と区分し、収蔵の絵画60点と彫刻12点、各種資料84点を展示し、美術における時代の変遷を検証してみようとする試みです。


【明治】浅井忠
《大原女》
(制作年不詳)
以下4点は
BBプラザ美術館所蔵

展示会場の入り口には、明治期に庶民の視覚メディアとして大阪に登場した、風刺や事件などを極彩色の絵で伝えた「錦絵新聞」や、ジャーナリストの宮武外骨が創刊した「滑稽新聞」、さらに雑誌の『大阪パック』など大衆ジャーナリズムの先駆けとなった資料も紹介し、時代を映す風俗なども振り返っています。  

明治期の作品では浅井忠の木版画《大原女》(制作年不詳)のほか、オーギュスト・ロダンの《ネレイデス》(1888年以前)や、エミール=アントワーヌ・ブールデルの《パリジェンヌ》(1907年)などの彫刻作品が目を引きます。  


【大正】佐伯祐三
《オワーズ河周辺風景》
(1924年)

大正期には、フランスで渡った佐伯祐三の《オワーズ河周辺風景》(1924年)を、影響を受けたブラマンクの《花瓶の花束》と、また梅原龍三郎の風景画《カンヌ》(1968年)と師事したピエール=オーギュスト・ルノワールの《薔薇をつけた少女》(1915年)も並べて比較展示しています。この時代では、モーリス・ユトリロの《植物園キュヴィエの家》(1920年頃)や、安井曾太郎の《黒き髪の女》(1924年)も出品されています。


【昭和】網谷義郎
《人》
(1967−68年)

昭和に入ると作品が圧倒的に増えます。前田青邨の《紅白梅》(1960−65年頃)や東山魁夷の《清晨》(1951年)、加山又造の《火山月光》(1973年)らの巨匠の作品をはじめ、マリー・ローランサンの《読書》(1950年)、マルク・シャガールの《果物がある静物》(1927年)も出品されています。

一方、網谷義郎の水彩《人》(1967−68年)など、神戸になじみの小磯良平や、西村元三朗らの新制作派協会や、戦後に旋風を巻き起こした具体美術協会の嶋本昭三、村上三郎、松谷武判、上前智裕、昨年11月に亡くなった堀尾貞治らの作品も並んでいます。


【平成】奥田元宋
《遠山白雪》
(1989年)

平成では、精神性の濃い独自の風景画で知られる奥田元宋の《遠山白雪》(1989年)や、画壇における女性の地位向上に努めた三岸節子の《花》(1991年)らの絵画作品に混じって、鉄の廃材や金属部品などを素材にした現代美術家の榎忠の《塊魂花》(2011年)など多様な作品が見られます。



しらとり まさお
文化ジャーナリスト、民族藝術学会会員、関西ジャーナリズム研究会会員、朝日新聞社元企画委員
1944年、新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、1970年に朝日新聞社入社。広島・和歌山両支局で記者、大阪本社整理部員。鳥取・金沢両支局長から本社企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を努める。この間、戦後50年企画、朝日新聞創刊120周年記念プロジェクト「シルクロード 三蔵法師の道」などに携わる。

新刊
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世界文化遺産登録記念出版
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定価:1,620円(税込)
発行:三五館
「反戦」と「老い」と「性」を描いた新藤監督への鎮魂のオマージュ

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第二章 「太陽はのぼるか」の全文公開
第三章 生きているかぎり生きぬきたい

人生の「夢」を持ち続け、100歳の生涯を貫いた新藤監督。その「夢」に交差した著者に、50作目の新藤監督の「夢」が遺された。幻の創作ノートは、朝日新聞社時代に映画製作を企画した際に新藤監督から託された。一周忌を機に、全文を公開し、亡き監督を追悼し、その「夢」を伝える。
新藤兼人、未完映画の精神 幻の創作ノート
「太陽はのぼるか」

発売日:2013年5月29日
定価:1,575円(税込)
発行:三五館
第一章 アートを支え伝える
第二章 多種多彩、百花繚乱の展覧会
第三章 アーティストの精神と挑戦
第四章 アーティストの精神と挑戦
第五章 味わい深い日本の作家
第六章 展覧会、新たな潮流
第七章 「美」と世界遺産を巡る旅
第八章 美術館の役割とアートの展開

新聞社の企画事業に長年かかわり、その後も文化ジャ−ナリスとして追跡する筆者が、美術館や展覧会の現況や課題、作家の精神や鑑賞のあり方、さらに世界の美術紀行まで幅広く報告する
展覧会が10倍楽しくなる!
アート鑑賞の玉手箱

発売日:2013年4月10日
定価:2,415円(税込)
発行:梧桐書院
・国家破綻危機のギリシャから
・「絆」によって蘇ったベトナム絹絵 ・平山郁夫が提唱した文化財赤十字構想
・中山恭子提言「文化のプラットホーム」
・岩城宏之が創った「おらが街のオケ」
・立松和平の遺志,知床に根づく共生の心
・別子銅山の産業遺産活かしまちづくり

「文化とは生き方や生き様そのものだ」と 説く著者が、平山郁夫、中山恭子氏らの文 化活動から、金沢の一市民によるベトナム 絹絵修復プロジェクトまで、有名無名を問 わず文化の担い手たちの現場に肉薄、その ドラマを活写。文化の現場レポートから、 3.11以降の「文化」の意味合いを考える。
ベトナム絹絵を蘇らせた日本人
「文化」を紡ぎ、伝える物語

発売日:2012年5月5日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
序 章 国境を超えて心の「家族」がいる
第一章 各界識者と「共生」を語る
第二章 変容する共産・社会主義
     世界の「共生」
第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
    広がる「共生」の輪

私たちは誰しも一人では生きていけな
いことをわかっていながら、家族や地域、国家 や国際社会のことに目を向けなくなっている。「人のきずなの大切さと、未来への視点」自らの体験を通じた提言としてまとめた。これからの生き方を考える何がしかのヒントになればと願う。
無常のわかる年代の、あなたへ
発売日:2008年3月17日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
アートの舞台裏へ
発売日:2007年11月1日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。
アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
(木村重信さんの序文より)
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
内容:「本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、実地踏査にもとづいて報告されている」と山折哲雄先生が序文を寄せている。
   

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三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06−6257−3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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