「シルクロード」をテーマにシンポ

2004年11月5日号

白鳥正夫

 シルクロードの言葉から何を連想するでしょう。行けども果てしない大地であり、遥かな山々や草原であり、沙漠の中に拓かれたオアシスであるかもしれません。狭い島国・日本にとっては、あこがれの異文化地域です。NPO法人の国際文化財調査研究所(I.C.P.S)では来月、「遥かなるシルクロード〜メッセージは時空を超えて〜」をテーマにシンポジウムを開催します。82歳の現在も中央アジアで発掘を続けている国立民族博物館名誉教授の加藤九祚さんを迎え意義のある催しです。

中国とキルギスタンの国境に連なる
天山山脈

モンゴルの舞踊と馬頭琴も

 シルクロードは、西のローマから東の西安や洛陽にいたる広大なアジアを横断する古代通商路で、中国から絹が運ばれ、この名に由来しますが、西からも宝石や玉、織物など様々なものが行き来したのです。そしてイスラム教も、インドからの仏教もこの道を通じ伝わったのでした。
 アレクサンドロス大王やチンギスハーンが勇躍し、幾度となく興亡の歴史を刻んできたシルクロードは、その十字路ともいわれるアフガニスタンや、イラクで今なお戦火にまみれています。

キルギスタンの草原地帯

 25年前、喜多郎の音楽で人気を博したNHK番組「シルクロード」は来年、装いを新たに放映されます。ひと足早くシルクロードの雰囲気を味わえる企画です。
 シンポは大阪市教育委員会および朝日新聞社の後援で、12月5日午後1時半から4時半まで大阪歴史博物館(大阪市大手前4丁目)の4階講堂で開かれます。
 主な内容は一部では、加藤さんの「ウズベキスタンの遺跡発掘調査から」の他、名古屋大学教授の宮治昭さんが「時空を超える仏教美術」の講演をします。
 二部がアトラクションで、中国内モンゴルの舞踊と馬頭琴の演奏です。
 さらに三部は「シルクロードによる文化交流の軌跡」と題する討論です。加藤、宮治さんと、I.C.P.S所長の永島暉臣愼さんも加わります。コーディネーターは朝日新聞編集委員の天野幸弘さんです。
 定員は250人(多数の場合は抽選)で、受講費用は1500円(教材費を含む)です。申し込みはFAXか往復ハガキに住所、氏名、年齢、電話番号を記入し、〒552−0021 大阪市港区築港2−8−24−305 NPO法人の国際文化財調査研究所「シルクロード係」へ。TEL06−6576−7480 FAX06−6576−7482。11月24日締め切りです。
 なおI.C.P.Sは、国際的な文化財の調査研究や保護、保存、修復などに貢献しようと設立され、文化的な研修、イベント・企画等に取り組んでいます。.地球上に残された貴重な文化遺産は、アフガニスタン・バーミアン石造大仏の破壊されたり、自然災害などによって脅威にさらされています。

ウズベキスタンのカラ・テパ遺跡で
発掘に取り組む加藤九祚さん

発掘の成果を日本で公開

 私が加藤さんと初めて会ったのは1997年6月。朝日新聞創刊120周年記念事業として「シルクロード 三蔵法師の道」プロジェクトの現地調査に協力を求めるためでした。その一カ月半後には、キルギスタン・クラスナヤレーチカの仏教遺跡の発掘現場で再会しました。日中は40度を超える暑さです。私は調査団員の一人としてこの地に赴き、発掘した遺構や出土物を見せてもらいました。加藤さんは自弁での研究でした。
 2001年春、今度は加藤さんから頼みがあるといいます。「まもなく80歳です。いつまで発掘ができるか分かりません。ウズベキスタンでの調査は来年で5年目になります。これまでの成果を発表する展覧会が出来ないものだろうか。支援していただいている人にも報告したいんです」と懇願されました。加藤さんの発掘には、奈良・薬師寺が共鳴し、カンパのための事務局を設置しています。
 私は1999年に開催した展覧会で、ウズベキスタンから出土品を借用していました。しかし加藤さん要請の展覧会を催すためには会場探しや展示品の調査、輸送方法や資金の確保など課題が多く、協力への即答はできなかったのです。とはいえシルクロードの仕事で加藤さんを知った私は、地道な活動を続ける生きざまに感動しており、発掘物を日本で公開することは、文化メセナ事業だと思いました。

加藤さんらが発掘した遺跡

 展覧会計画を具体化するために、展示品の調査やリスト作成、撮影、運送方法や保険、日本への搬送手続きなどを、ウズベク側と詰める必要がありました。2001年10月、現地行きを進めていましたが、アメリカでの同時多発テロに対するアフガニスタンへの報復の空爆で、一時は展覧会計画を断念しなければならないのかと懸念しました。発掘現場のテルメズはアフガニスタンと国境を接しているうえ、カラ・テパ遺跡は軍事基地内にあり、立ち入り禁止となってしまったからです。
 年が明けて2002年3月、アフガンのタリバンが崩壊し情勢も安定したため、私は会場に内定していた福岡市博物館の学芸員やカメラマンらとウズベクに赴きました。 展覧会開催への準備が着々進みましたが、直前になって予期せぬ事態になりました。
 ウズベク政府内で、発掘文化財の国外持ち出しには、日本国政府の公式要請が必要だ、との難題が持ち上がったのです。さらに鑑定手続きなども遅れ、展示品が届いたのは開幕の二日前で肝を冷やしたものです。

タシケントのバザール


 加藤さんの真摯な行動に、日本の外務省や大使館が異例の措置で対応してくれたのが最後の決め手になったのです。何しろ加藤さんはウズベク政府から友好勲章が贈られた功労者なのです。
 加藤さんの悲願ともいえた発掘成果の展覧会は、「ウズベキスタン考古学新発見展 加藤九祚のシルクロード」と銘打って、東京・奈良・福岡の三都市を巡回しました。建物の柱頭を飾った女神のような石製の天部像やストゥパの平頭など5年間かけて発掘した遺物で、文字通り本邦初公開でした。

学ぶべき国際交流の実践


 国際交流を口にするのは簡単ですが、その実践は難しいものです。まして異国で炎天下の発掘となると至難なことです。加藤さんは「ともかく85歳までとか、90歳までとか思い描いてみることもありますが、思い悩んでも仕方がありません。ともかく足腰の立つ間はこの仕事を続け、カラ・テパの発掘調査報告書を仕上げたい」と語っています。
 加藤さんにとって23歳から4年8カ月に及んだシベリア抑留は、その後の人生を運命づけたようです。「生きて帰ることができたら、どういう生き方ができるのか」と問い詰めたことがあったそうですが、「答えはただただ学問のために、新しいことをもたらす実践」を信条にして、シルクロードの発掘に情熱を傾注しているのです。加藤九祚さんの一途な信念とパワーあふれる生き方には驚くばかりです。
 新しい世紀、私たち一人一人が世界の中でどう生きたらいいのかが問い直されています。そして国際社会への日本の役割が求められています。この歴史の転換期にあたって、加藤さんのメッセージを聞いてみたいものです。
 シルクロード文化の交流に貢献する加藤さんこそ地球市民の実践者です。シルクロードを通じ、国益を超えた地球市民の時代へ、シルクロードからから21世紀への指針を学ぼうではありませんか。

海抜2000メートルのナリンの町では
ユルタでのテント生活だ


しらとり・まさお
朝日新聞社前企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を務める。編著書に『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)、『鳥取砂丘』『鳥取建築ノート』(いずれも富士出版)などがある。


「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたち平山郁夫画伯らの文化財保護活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢しごと 三蔵法師を伝えて
発売日:2000年12月21日
定価:本体1,800円+税
発行:東方出版
内容:玄奘三蔵の心を21世紀へ伝えたいという一心で企画した展覧会。構想から閉幕に至るまで、筆者の「夢しごと」をつづったルポルタージュ。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。

◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06−6257−3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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