お正月の展覧会アラカルト

2018年1月1日号

白鳥正夫

2018年の年明けです。寒い日も続きますが、時間が取れるお正月に美術・博物館で文化の薫りに触れるのはいかがでしょうか。京阪奈で開催中の展覧会アラカルトを紹介します。日本初公開の「唐代胡人俑−シルクロードを駆けた夢」が大阪市立東洋陶磁美術館で3月25日までロングラン開催中。奈良国立博物館では恒例の特別陳列「おん祭と春日信仰の美術」が1月14日まで、京都国立博物館は新春特集展示「京博のお正月 いぬづくし―干支を愛でる」が1月21日まで開かれています。もう一つ新春らしい「京都市美術館所蔵品展 描かれた“きもの美人”」は美術館「えき」KYOTOで1月21日まで、同じく京都で「改組 新 第4回 日展」が京都市美術館別館とみやこめっせで1月12日まで、その後大阪市立美術館に舞台を移し2月24日から3月25日まで、それぞれ催されます。


開館35周年記念・日中国交正常化45周年記念特別展
「唐代胡人俑−シルクロードを駆けた夢」

多彩、迫力ある表現、日本初公開の約60点


《加彩胡人俑》
以下4点
いずれも
(730年、
甘粛省慶城県
穆泰墓出土、
慶城県博物館)



《加彩胡人俑》



《加彩胡人俑》



《加彩女俑》

まずこの胡人俑の説明から。「胡人(こじん)」とは、唐時代の中国において広く異民族を指す名称です。シルクロードの東西交易を通して、中央アジアのソグド人(イラン系民族)などが往来しました。「俑」とは、古の中国で墓に副葬された陶製のミニチュアです。兵馬俑が有名ですが、今回の主役は、エキゾチックな風貌をした人形といえます。

展覧会には、2001年に中国甘粛省慶城県で発見された唐時代(618− 907年)の将軍・穆泰(ぼくたい)墓(730年)から出土した胡人俑の数々が日本で初めて紹介されています。これらの胡人俑は鮮やかな彩色と極めて写実的な造形により唐代胡人俑を代表するもので、甘粛省の慶城県博物館が所蔵する約60点の出品です。

展示品のほとんどが《加彩胡人俑》の名称ですが、チラシの表面を飾っているのが、こぶしを握り締め両手を高く上げた力強いポーズをとっています。大きな目や口、鼻が高く、明らかに漢民族とは異なる風貌です。頭には朱色の布を巻き、丸襟の衣服を着て、腰には黒いベルト、豹柄のズボンをはき、黒いブーツを履いています。54センチの大きさですが、存在感があります。

高く突起した帽子をかぶる《加彩胡人俑》は異様です。右目を閉じた大きな目、高い鼻、ひげをはやし、朱に塗られた唇や口を開けて歯をむき出しにした顔貌で、独特の迫力があります。

太鼓腹を自慢げに見せる《加彩胡人俑》もユニークです。 深くくぼんだ大きな目、鼻先が上を向き、シャベルのような顎鬚を蓄えています。丸襟の胡服の前をはだけて、胸と大きな太鼓腹を露出させ、両手をやや後ろにして袖の中にしまった手を腰のあたりに当てた姿は、目を引きます。

このほか優雅な衣装をまとった女性をかたどった《加彩女俑》、二コブを持つ《加彩駱駝》や、小型サイズでグループの《加彩胡人俑》、さらに精悍なウマの姿をリアルに表現した《加彩馬》、《加彩牛》や《加彩山羊》ら多彩な出土品が並んでいます。

なお同館では、「唐代胡人俑」展に併せて、国立国際美術館が所蔵する舟越桂の《銀の扉に触れる》(1990年)など現代の人物彫刻9点を展示する連携企画「いまを表現する人間像」展、並びに特集展「中国陶俑の魅力」なども同時開催しています。

大阪市立東洋陶磁美術館で「唐代胡人俑」展担当の小林仁・主任学芸員は図録に「胡人俑の表現にも異国人の特徴や仕草などを生き生きと捉えようとする意識が強く働いて、迫真的で彫塑芸術として極めて完成度の高い作例も数多く見られる。(中略)胡人俑は唐代芸術の一つの象徴ともいえ、胡人俑を通して、華麗に花開いた唐時代の文化・芸術の一端が鮮やかに浮かび上がるはずである」と強調しています。

特別陳列「おん祭と春日信仰の美術」
 祭礼の様子を伝える《春日若宮御祭礼絵巻》

春日若宮おん祭は、一年に一度、常の住まいを離れて御旅所(おたびしょ)の御假殿(おかりでん)に遷座(せんざ)される若宮神の前に、芸能などを奉納するお祭りです。882年目の行事は年末に終えていますが、特別陳列では、おん祭の歴史と祭礼の様子を、絵画や文献史料、芸能資料等などを展示し、併せて春日信仰に関する美術を紹介する恒例の企画です。今回は、華やかなお渡り式の様子を描いた絵巻物を展示するほか、かつて春日社の神官を務めた旧社家に伝来した史料を交え展示しています。


《春日若宮御祭礼絵巻 中巻(部分)》
以下3点いずれも(江戸時代、春日大社)



主な出陳品として、《春日若宮御祭礼絵巻 中巻》(江戸時代、春日大社)は、おん祭の様子を描いた三巻からなる長大な絵巻の二巻目です。お渡り式(風流行列)の始終を丹念に描いています。


《春日権現験記(春日本)巻第十(部分)》


《春日権現験記(春日本)巻第十》(江戸時代、春日大社)は、絵師の高階隆兼(たかしなたかかね)の原本をもとにした忠実な模本で、松平定信が父の事業を引き継いで完成させたものです。


《猿錠蒔絵大鼓胴》

《猿錠蒔絵大鼓胴》(江戸時代、春日大社)は、能や神楽(かぐら)に用いられる打楽器です。小鼓より大きく、棹の中央に節を設けているのが特徴。左膝の上に構えて手で打って演奏されます。

このほか、《春日若宮祭礼図・鷹狩図屏風》(江戸時代、個人蔵)や、《中臣祐賢春日御社縁起注進文》(鎌倉時代、春日大社)、《春日御社御造営事(断簡貼交屏風)》(鎌倉時代、個人蔵)、《絵馬》(室町〜安土桃山時代、春日大社)などが展示されています。


新春特集展示「京博のお正月 いぬづくし―干支を愛でる」  
  愛玩犬が登場する美術作品の数々

2018年の干支である犬をテーマにした展示です。京都国立博物館では、干支にちなんだ作品を紹介する特集陳列の第三弾になります。日本人と猟犬とのかかわりは古く、『播磨国風土記』には麻奈志漏(まなしろ)という応神天皇の猟犬の話が出てきます。愛玩犬においても非常に古い歴史があり、犬にちなんだ美術作品が展示によって、人間に身近な存在であった犬たちの愛らしい姿が楽しめます。


《花卉鳥獣図巻(部分)
国井応文・望月玉泉筆 京都国立博物館》


主な展示品に、同館所蔵の国井応文、望月玉泉合筆による《花卉鳥獣図巻(部分)》(江戸〜明治時代)があります。ジャパニーズ・チンと呼ばれる日本原産の小型犬で、白黒の長毛で、短吻種(たんふんしゅ)と言う鼻がくしゃっとつまっているのが特徴です。


《加彩婦女俑
(狗を抱く)》
(唐時代、京都国立博物館)


《加彩婦女俑(狗を抱く)》(唐時代、京都国立博物館)は、加彩婦女が抱くのは狆と狆(ちん)と言う外来の小型室内犬です。珍しいものなので、上流階級の愛玩犬として飼われていたようです。

京都国立博物館では、1月28日まで「御所文化を受け継ぐ―近世・近代の有職研究―」の展示も開いています。平安時代に頂点を迎えた御所を中心とする公家文化は、社会の変動や応仁の乱をはじめとする内戦によって変遷しますが、江戸時代以降、理想の時代の再現をめざして、さまざまな研究が重ねられ様相を振り返っています。

「京都市美術館所蔵品展 描かれた“きもの美人”」  

  上村松園や堂本印象らの美人画約40点


上村松園
《春光(部分)》
(昭和初期、京都市美術館)




堂本印象の《婦女》
(1948年、京都市美術館)

2019年度内のリニューアルオープンに向け、現在本館が閉館中の京都市美術館所蔵コレクションの中から日本画を中心に、34名の作家による美しく艶やかに描かれた“きもの美人”約40点が出品されます。新春企画にふさわしく、近代の画家たちが描いたさまざまな女性像が楽しめます。会期中に着物で入館した方は先着100名に絵はがきがプレゼントされるとのことです。

京都市美術館は1933年に設立された公立美術館です。同館所蔵のコレクションは多岐にわたり、近現代の日本画・洋画・彫刻・工芸・書・版画など約3400点を所蔵しています。また創設以来80年以上にわたって、近現代美術作品の鑑賞と発表のための、西日本最大の舞台の一つとして、戦後日本文化のなかで大きな役割を果たしてきました。京都市美術館所蔵品展は3回シリーズとなっています。

主な出品作品では、上村松園の《春光》(昭和初期)、《人生の花》(1899年)、鹿子木孟郎の《新夫人》(1909年)、菊池契月の《散策》(1934年)、北野恒富の《いとさんこいさん》(1936年)、堂本印象の《婦女》(1948年)、海老名正夫《出を待つ》(1979年)などです。いずれも京都市美術館所蔵です。

「改組 新 第4回 日展」  
  日本最大級、京都・大阪とも500点超す


京都市美術館別館での
日本画展示




奥田小由女
《海からの生還》

日展は、明治40年に文部省美術展覧会として始まり、名称の変更や組織を改革しながら100年を超える歴史と伝統を誇る日本で最大規模の公募展です。日本画・洋画・彫刻・工芸美術・書の5部門からなり、日本を代表する巨匠から新人作家の入選作までの多彩な作品が出品されます。今回は平成27年の組織改革に伴って、改組4回目の開催となりました。

年末年始の風物詩となっている京都展は、例年会場となっていた京都市美術館再整備中のため、展示会場を変えて開催しています。会員作家及び今回の入賞者による全国を巡回する基本作品246点と、京都・滋賀の地元関係作品281点合わせて527点を展示しています。

その数の多さに圧倒されますが、現代作家たちの制作動向を知ることができ、表現の多様さが魅力です。日本画は京都市立美術館別館に展示されていますが、大作がひしめき、所狭しと並んでいます。しかし従来の日本画のイメージとは異なる斬新な発想で描かれた作品に驚かされます。

記者内覧会に駆けつけると理事長で審査委員長の奥田小由女さんも来場していて、自作の人形《海からの生還》について説明を伺うことができました。「深い海に多くの命が流され沈んでいます。その魂を天に向かって生還してほしいとの願いを込めました」とのこと。一番下の女性のお腹の上の子どもが印象的な作品です。

大阪展では、基本作品と、大阪・兵庫・奈良・和歌山に在住する会員作家の作品 や入選作品など地元作品335点を合わせて総数581点を陳列します。



しらとり まさお
文化ジャーナリスト、民族藝術学会会員、関西ジャーナリズム研究会会員、朝日新聞社元企画委員
1944年、新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、1970年に朝日新聞社入社。広島・和歌山両支局で記者、大阪本社整理部員。鳥取・金沢両支局長から本社企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を努める。この間、戦後50年企画、朝日新聞創刊120周年記念プロジェクト「シルクロード 三蔵法師の道」などに携わる。

新刊
「シルクロードを界遺産に」と、提唱したのは故平山郁夫さんだ。シルクロードの作品を数多く遺し、ユネスコ親善大使として文化財保存活動に邁進した。

社長業を投げ捨て僧侶になった小島康誉さんは、新疆ウイグル自治区の遺跡の修復や調査支援を30年も続けている。

シベリアに抑留された体験を持つ加藤九祚さんは90歳を超えて、仏教遺跡の発掘ロマンを持続する。

玄奘の意志に導かれアフガン往還半世紀になる前田耕作さんは、悲劇のバーミヤンの再生に情熱を燃やす。
シルクロードの現代日本人列伝
―彼らはなぜ、文化財保護に懸けるのか?

世界文化遺産登録記念出版
発売日:2014年10月25日
定価:1,620円(税込)
発行:三五館
「反戦」と「老い」と「性」を描いた新藤監督への鎮魂のオマージュ

第一章 戦争を許さず人間愛の映画魂
第二章 「太陽はのぼるか」の全文公開
第三章 生きているかぎり生きぬきたい

人生の「夢」を持ち続け、100歳の生涯を貫いた新藤監督。その「夢」に交差した著者に、50作目の新藤監督の「夢」が遺された。幻の創作ノートは、朝日新聞社時代に映画製作を企画した際に新藤監督から託された。一周忌を機に、全文を公開し、亡き監督を追悼し、その「夢」を伝える。
新藤兼人、未完映画の精神 幻の創作ノート
「太陽はのぼるか」

発売日:2013年5月29日
定価:1,575円(税込)
発行:三五館
第一章 アートを支え伝える
第二章 多種多彩、百花繚乱の展覧会
第三章 アーティストの精神と挑戦
第四章 アーティストの精神と挑戦
第五章 味わい深い日本の作家
第六章 展覧会、新たな潮流
第七章 「美」と世界遺産を巡る旅
第八章 美術館の役割とアートの展開

新聞社の企画事業に長年かかわり、その後も文化ジャ−ナリスとして追跡する筆者が、美術館や展覧会の現況や課題、作家の精神や鑑賞のあり方、さらに世界の美術紀行まで幅広く報告する
展覧会が10倍楽しくなる!
アート鑑賞の玉手箱

発売日:2013年4月10日
定価:2,415円(税込)
発行:梧桐書院
・国家破綻危機のギリシャから
・「絆」によって蘇ったベトナム絹絵 ・平山郁夫が提唱した文化財赤十字構想
・中山恭子提言「文化のプラットホーム」
・岩城宏之が創った「おらが街のオケ」
・立松和平の遺志,知床に根づく共生の心
・別子銅山の産業遺産活かしまちづくり

「文化とは生き方や生き様そのものだ」と 説く著者が、平山郁夫、中山恭子氏らの文 化活動から、金沢の一市民によるベトナム 絹絵修復プロジェクトまで、有名無名を問 わず文化の担い手たちの現場に肉薄、その ドラマを活写。文化の現場レポートから、 3.11以降の「文化」の意味合いを考える。
ベトナム絹絵を蘇らせた日本人
「文化」を紡ぎ、伝える物語

発売日:2012年5月5日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
序 章 国境を超えて心の「家族」がいる
第一章 各界識者と「共生」を語る
第二章 変容する共産・社会主義
     世界の「共生」
第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
    広がる「共生」の輪

私たちは誰しも一人では生きていけな
いことをわかっていながら、家族や地域、国家 や国際社会のことに目を向けなくなっている。「人のきずなの大切さと、未来への視点」自らの体験を通じた提言としてまとめた。これからの生き方を考える何がしかのヒントになればと願う。
無常のわかる年代の、あなたへ
発売日:2008年3月17日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
アートの舞台裏へ
発売日:2007年11月1日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。
アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
(木村重信さんの序文より)
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
内容:「本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、実地踏査にもとづいて報告されている」と山折哲雄先生が序文を寄せている。
   

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三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
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