京都で注目!3つの企画展

2014年9月19日号

白鳥正夫


オープンした
京都国立博物館の
平成知新館

いよいよ美術の秋です。そんな季節、京都国立博物館に平成知新館がオープンしました。その開幕を飾る展覧会は、その名も「京(みやこ)へのいざない」。開催期間は2期(1期:〜10月13日、2期:15日〜11月16日)で、展示作品は2期合わせ国宝50余点、重要文化財110余点を含む総計約400点を数えます。絵画・書跡・彫刻・工芸・考古の各分野から選りすぐられた、名品・名作のオンパレードで、宣伝文句どおり、「ズラリ国宝、ずらり重文」なのです。一方、同じ京都で世界を魅了した日本の美「ジャポニスム」を代表する企画展が同時期に開かれます。ジャポニスムの先駆者とされる「ホイッスラー展」は京都国立近代美術館で11月16日まで、「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 印象派を魅了した日本の美」も京都市美術館で11月30日まで開催されます。日本の美を再発見できる古都・京都は、現在も新たな美術の発信地なのです。

国宝・重文ズラリ「京へのいざない」展


巨大な「大日如来坐像」と
「不動明王坐像」などの展示

国宝「伝源頼朝像」
(平安後期、神護寺)

重文「宝誌和尚立像」
(平安後期、西住寺)

平安遷都以降1000年にわたって、わが国の都であった京都は、文化の中心地でした。天皇や公家による優雅な王朝文化、北山・東山文化に代表される幽玄な武家文化、天下人・豊臣秀吉の強烈な個性を反映した華麗な桃山文化、そして庶民の生き生きとした暮らしぶりを伝える町衆文化など、それぞれの時代を彩るさまざまな文化が、京都の地で花開いたのです。

「京へのいざない」展の会場となった平成知新館は、1966年に建てられた平常展示館の建て替えとして、2009年から建設が進められてきたものです。明治に建てられたレンガ造りの本館とは対照的に、外観は京都の町家をコンセプトに、ガラス張りの近代建築で、展示室全体が免震構造や最新の映像設備を備えた講堂、四季折々の庭を眺められるレストランもあります。設計は東京国立博物館の法隆寺宝物館も手がけた谷口吉生さんです。
 

全期間展示される「京都の平安・鎌倉彫刻」のコーナーでは、2階まで吹き抜けの空間に約20躯の仏像が一堂に展示されていて壮観です。大半が重文の名品ぞろいで驚きです。
 
中でも大阪・天野山金剛寺の本尊で、巨大な「大日如来坐像」(平安後期)と、脇侍の「不動明王坐像」(鎌倉)が配置されていて圧巻です。「大日如来坐像」は木造に金色の装いが施され輝くばかりです。「不動明王坐像」は快慶の弟子・行快の作です。
 
他は京都国立博物館の収蔵品や京都の寺社などからの寄託が多く、法然上人の念持仏と伝わる知恩院の「阿弥陀如来立像」、妙法院と光明寺からも形態の異なる「千手観音立像」、地蔵院の「観音菩薩坐像」などが展示されています。西住寺の「宝誌和尚立像」は、一度目にしたら忘れられない仏像です。和尚の顔が割れ11面観音菩薩が現われる様を、ノミ目を残す彫り方だそうです。
 
今回の企画展の特別展示室には、1期に「肖像画」、2期には「桃山、秀吉とその周辺」が展示されます。わが国の肖像画の最高傑作である国宝の「伝源頼朝像」、それと対をなす「伝平重盛像」(ともに国宝、神護寺)をはじめ、いずれも重文の「鳥羽天皇像」(満願寺)や「花園法皇像」、さらには「聖一国師像」と中国の高僧像まで、鎌倉時代から室町時代にかけての傑作が出品されていて、見ごたえがあります。


重文「舞踊図?風」(江戸時代、京都市)

絵巻も、国宝が主で、1期が「一遍聖絵 巻9・巻10」(清浄光寺)、「法然上人絵伝 巻3・巻16」(知恩院)、「餓鬼草子」(京都国立博物館)を、2期が「粉河寺縁起絵巻」(粉河寺)、「法然上人絵伝 巻9・巻10」(知恩院)などをそれぞれ出展しています。
 
その他、1期の代表作として、国宝の「釈迦金棺出現図」や雪舟筆「天橋立図」(ともに京都国立博物館)、長谷川等伯筆「枯木猿猴図のうち」(龍泉庵)、重文の「舞踊図屏風」(京都市)、全期を通し「薄蒔絵唐櫃」(豊国神社)、伝野々村仁清作「色絵釘隠のうち」など名品がそろっています。
 
京都国立博物館上席研究員の山本英男研究員は「展示は書跡や考古など各分野におよび、選りすぐられた、まさに名品・名作で京文化の粋を堪能できます。京博の長い歴史の中でも、前例のない贅沢な展示です」と強調しています。これだけ規模の大きい企画展ながら、一般520円、大学生260円、高校生以下無料という入場料なので、見逃せません。

ジャポニスムの先駆「ホイッスラー展」


ホイッスラー
「白のシンフォニー No.2;
小さなホワイト・ガール」
(1864年、テート美術館)   
(C)Philadelphia Museum of Art

ホイッスラー
「白のシンフォニー No.3」
(1865-67年 バーバー美術館
(バーミンガム大学附属)
(C)The Barber Institute of
Fine Arts,
University of Birmingham

ホイッスラー
「紫とバラ色:
6つのマークのランゲ・
ライゼン
(フィラデルフィア美術館)
(C)Philadelphia Museum
of Art

ホイッスラー
「ノクターン;
青と金色ーオールド・
バターシー・ブリッジ」
(1872-75年、テート美術館)
(C)Tate, London 2014

日本では27年ぶり、世界でも20年ぶりという「ホイッスラー展」は、アメリカ、イギリス、フランスの20ヵ所以上の美術館や所蔵先から約130点の油彩・水彩そして版画の代表作を集めた一大回顧展で、横浜美術館に巡回します。私にとって初めて見る作品で、京都展の内覧会に駆けつけました。

プレスリリースなどによると、19世紀後半を代表する画家・版画家のジェームズ・マクニール・ホイッスラー(1834-1903)は、アメリカのボストン近郊ローウェルに生まれ、幼少期をロシアで過ごします。21歳の時に画家を志しパリへ。ギュスターヴ・クールベの写実主義に感銘を受け、移住したロンドンでは、ラファエロ前派の画家たちとも交流を深め、英仏を往来し活躍したのでした。

ホイッスラーは、当時主流であった歴史や教訓を伝えるメディアとしての絵画を否定し、絵画そのものの表現力、色彩や造形による純粋な視覚的効果を追求しました。画面における色や形の調和に主眼をおいた作品を発表し、新たな美の発見を目指す、唯美主義の主導者として、同時代の芸術家たちに広く影響を与えたのでした。

1867年と1878年のパリ万博で、日本文物の紹介の中にあった浮世絵が、当時フランスの印象派の画家や先進的な欧米の画家らに新鮮な画風の要素を吹き込みました。ホイッスラーもその一人で、日本の美術・工芸品から大きなインスピレーションを得て独自の画風を確立したのでした。

今回の展覧会は、灰色から黒の諧調と幾何学的な構図を基調とした「第1章 人物画」、写実主義から詩情豊かに表現した「第2章 風景画」、そして日本美を吸収し独自の作品に仕上げていった「第3章 ジャポニスム」の三つの章から構成されています。ホイッスラーに影響を与えた浮世絵などの参考作品・資料をも併せて紹介されています。

代表作の中で、図録の表紙になっているのが、「白のシンフォニー bQ:小さなホワイト・ガール」という作品は、白いドレスを着た女性がうちわを持つ姿と、背景の台の上に、朱色の椀や白磁の壺も描かれていて、ジャポニスムの要素が見られます。

「ノクターン:青と金色―オールド・バターシー・ブリッジ」は、比較展示された歌川広重の「名所江戸百景」のうち「京橋竹がし」と類似性があり、ジャポニスムの影響が顕著な作品です。

会場に映像の特別展示「ピーコック・ルーム」が設けられ、ホイッスラーがてがけた室内装飾が詳細に紹介されています。アメリカのフリーア美術館に移築されているそうで、「バラ色と銀色:陶器の国の姫君」を飾る部屋になっています。

モネの「ラ・ジャポネーズ」修復後初公開


モネ
「ラ・ジャポネーズ
(着物をまとうカミーユ・
モネ)」
(1876年)
1951 Purchase Fund 56.147

ゴッホ
「子守唄、ゆりかごを揺らす
オーギュスティーヌ・
ルーラン夫人」
(1889年)
Bequest of John T. Spaulding
48.548

ムンク
「夏の夜の夢(声)」
(1893年)
Ernest Wadsworth
Longfellow Fund 59.301

もう一つの「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展」は、15万人余の入場者のあった世田谷美術館に続いての開催で、京都展後に名古屋ボストン美術館に巡回します。初期ジャポニスムを代表するクロード・モネの大作「ラ・ジャポネーズ」をはじめ,ボストン美術館の所蔵品より厳選された絵画のほか版画や素描、写真、工芸など約150点が展示されます。

モネやゴッホ、マネ、ドガ、ロートレック、ルノワール、カサット、ゴーギャンらの巨匠たちが、浮世絵など日本美に魅了さされたのかをテーマに、「日本趣味(ジャポネズリー)」「女性」「シティ・ライフ」「自然」「風景」の5章建てで、展示構成されています。

ホイッスラー展同様、ここでも比較展示しながら具体的に紹介しています。例えば、フィンセント。ファン・ゴッホの人物画には、黄・赤・白・黒などの
色彩や強い線描表現など装飾性に浮世絵の影響が濃厚です。ゴッホの「子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人」と歌川国貞(三代豊国)・歌川広重「当盛十花撰夏菊」を対比させています。浮世絵と構図、アイディア、モチーフがそっくりの作品が何十点もあり、いかに影響力が強かったかを示していて、興味を惹きます。

本展のみどころは、なんといってもモネの傑作「ラ・ジャポネーズ」です。この作品は1993年に兵庫県立近代美術館で開催された「モネと印象派 ボストン美術館展」で来日し鑑賞していますが、2013年2月から剥離の可能性のある脆弱な個所を安定させる修復作業が行われており、今回はその修復後初となる展示となっています。

 

 


 

しらとり まさお
文化ジャーナリスト、民族藝術学会会員、関西ジャーナリズム研究会会員、朝日新聞社元企画委員
1944年、新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、1970年に朝日新聞社入社。広島・和歌山両支局で記者、大阪本社整理部員。鳥取・金沢両支局長から本社企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を努める。この間、戦後50年企画、朝日新聞創刊120周年記念プロジェクト「シルクロード 三蔵法師の道」などに携わる。

新刊
「反戦」と「老い」と「性」を描いた新藤監督への鎮魂のオマージュ

第一章 戦争を許さず人間愛の映画魂
第二章 「太陽はのぼるか」の全文公開
第三章 生きているかぎり生きぬきたい

人生の「夢」を持ち続け、100歳の生涯を貫いた新藤監督。その「夢」に交差した著者に、50作目の新藤監督の「夢」が遺された。幻の創作ノートは、朝日新聞社時代に映画製作を企画した際に新藤監督から託された。一周忌を機に、全文を公開し、亡き監督を追悼し、その「夢」を伝える。
新藤兼人、未完映画の精神 幻の創作ノート
「太陽はのぼるか」

発売日:2013年5月29日
定価:1,575円(税込)
発行:三五館
新刊
第一章 アートを支え伝える
第二章 多種多彩、百花繚乱の展覧会
第三章 アーティストの精神と挑戦
第四章 アーティストの精神と挑戦
第五章 味わい深い日本の作家
第六章 展覧会、新たな潮流
第七章 「美」と世界遺産を巡る旅
第八章 美術館の役割とアートの展開

新聞社の企画事業に長年かかわり、その後も文化ジャ−ナリスとして追跡する筆者が、美術館や展覧会の現況や課題、作家の精神や鑑賞のあり方、さらに世界の美術紀行まで幅広く報告する
展覧会が10倍楽しくなる!
アート鑑賞の玉手箱

発売日:2013年4月10日
定価:2,415円(税込)
発行:梧桐書院
・国家破綻危機のギリシャから
・「絆」によって蘇ったベトナム絹絵 ・平山郁夫が提唱した文化財赤十字構想
・中山恭子提言「文化のプラットホーム」
・岩城宏之が創った「おらが街のオケ」
・立松和平の遺志,知床に根づく共生の心
・別子銅山の産業遺産活かしまちづくり

「文化とは生き方や生き様そのものだ」と 説く著者が、平山郁夫、中山恭子氏らの文 化活動から、金沢の一市民によるベトナム 絹絵修復プロジェクトまで、有名無名を問 わず文化の担い手たちの現場に肉薄、その ドラマを活写。文化の現場レポートから、 3.11以降の「文化」の意味合いを考える。
ベトナム絹絵を蘇らせた日本人
「文化」を紡ぎ、伝える物語

発売日:2012年5月5日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
序 章 国境を超えて心の「家族」がいる
第一章 各界識者と「共生」を語る
第二章 変容する共産・社会主義
     世界の「共生」
第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
    広がる「共生」の輪

私たちは誰しも一人では生きていけな
いことをわかっていながら、家族や地域、国家 や国際社会のことに目を向けなくなっている。「人のきずなの大切さと、未来への視点」自らの体験を通じた提言としてまとめた。これからの生き方を考える何がしかのヒントになればと願う。
無常のわかる年代の、あなたへ
発売日:2008年3月17日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
アートの舞台裏へ
発売日:2007年11月1日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。
アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
(木村重信さんの序文より)
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
内容:「本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、実地踏査にもとづいて報告されている」と山折哲雄先生が序文を寄せている。

◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
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