「ぐるっとパス」でミュージアムめぐり

2014年4月18日号

白鳥正夫


「ミュージアム
ぐるっとパス・関西2014」
冊子の表紙

お花見がひと段落すれば、美術館や博物館めぐりの格好のシーズンです。そこでお手軽で便利な特典付き案内ガイド「ミュージアムぐるっとパス・関西2014」を紹介しましょう。近畿2府3県(大阪・京都・兵庫・滋賀・奈良)にある博物館、美術館など51施設の無料入場券16枚や割引券56枚、関連割引飲食施設10店も利用できる有料の冊子で、今年発刊10周年を迎えました。この一年間の展覧会全日程一覧を初めて掲載しているのをはじめ、3月にオープンしたあべのハルカス美術館の割引券や9月に新装開館する京都国立博物館の平成知新館の無料入場券も付いており、益々充実しています。併せて5月にかけて開催中の展覧会のいくつかも取り上げます。

無料や割引、便利な案内ガイド
知らなかった館の見聞の機会に


10周年記念の
記者会見をする
実行委員会の
蓑豊委員長の(左)と
佐々木丞平副委員長

「ミュージアムぐるっとパス」が生まれた経緯は、2003年5月に当時の河合隼雄・文化庁長官(故人)が提唱した「関西元気文化圏」構想がきっかけでした。河合さんの呼びかけは「文化には人を動かす力がある。文化には日本を動かす夢がある。みんな力を合わせて、いま関西から元気になろう」という趣旨です。


何もかもが東京に一極集中する中、歴史の蓄積がある関西が起爆剤になってほしいとの呼びかけに、2002年に発足していた関西ミュージアム館長会議で検討し、2005年からスタートさせたのでした。

この10年間に、次世代への文化継承の一環として大学生や高校生を対象にした冊子を一時発行したり、和歌山地区の施設の離脱など紆余曲折がありましたが、「関西から文化力」を旗印に、定着したのです。


京都国立博物館の
平成知新館

利用者のアンケートには、常設展だけでも見応えがあり、今まで見ることの無かった分野を知ることができた、知らなかった美術館に次々と行きたくなった、所在地や展示内容が記載されていてとても便利、などといった感想が寄せられています。

これまでの普及状況は、年々利用者が増え、集計のまとまった2012年の「ぐるっとパス」の販売実績は4017冊で、利用状況は割引券6865枚、無料券3094枚の経9959枚となっています。ところで一冊をフル利用すると、1万5790円分になるとのことで、事務局では、もっと多くの人に知ってもらい、利用率も高めたいとPRしています。


国宝「熊野速玉大神坐像」
(平安時代、和歌山県・
熊野速玉大社)

このほど10周年記念の記者会見があり、実行委員会委員長の蓑豊・兵庫県立美術館長は、「アメリカは人口3億人ですが、年間8億5000万人がミュージアムを利用しています。このパスもツールの一つですが、日本でも家族連れで楽しめるような工夫を重ねます。もっともっと新しい観客を増やしたいものです」と、意気込んでいます。

10周年を期に、今後の美術・博物館のあり方について、蓑委員長は、「これからのミュージアムに求められるのは、作品を貴重品として守るだけの威厳ある建物ではなく、子どもから大人まで家族全員が違和感なく美術に親しみ、生活の一部として見て、聞いて、触って、感じて過ごせる場所にしたい」と、メッセージしています。


国宝「経筒(藤原道長埋納」
(平安時代、奈良県・
金峯神社)

また実行委員会副委員長の佐々木丞平・京都国立博物館長は、「京都では寺社観光が多く、ライバルの関係にありますが、博物館での仏像は見やすく、その仏像のある寺社に出向くといった連携も課題です。パスで京都の情報を知り、大いに見聞を広めていただきたい」と、呼びかけていました。

なお京都国立博物館の平成知新館は、2008年度から5年がかりで総額195億5000万円をかけ完成したものです。設計者は谷口吉生さんで、耐震性に加え近代的なデザインの中に和風の雰囲気も随所に取り入れています。オープン記念展は「京へのいざない」で、9月13日から11月16日まで開催され、2期に分け総数400点、国宝や重要文化財も合わせて約150点出品されますが、こちらはパスがあれば無料で見ることができます。

ところで「ミュージアムぐるっとパス・関西2014」をご存知無い方のために利用内容です。期間は4月〜来年3月末までで、販売価格は利用日から6カ月間有効のプレミアム版が1800円、3カ月間有効の普及版が1000円。販売窓口は参加51の各施設のほか、ジュンク堂書店の主要店、JR西日本主要駅の「みどりの窓口」、近畿日本鉄道と京都市交通局などの取り扱い交通機関、チケットぴあ・ドコモ、大学生協、JTB各支店、ぴあ各店舗、コンビニエンスストアなどです。お問い合わせは、実行委員会06−6444−236。


神仏や仏教美術、多彩な展覧会
ファッションやフランス絵画も


「高野山参詣蔓茶羅図」
(室町時代、
東京藝術大学美術館)

「ミュージアムぐるっとパス」を利用すれば、関西で開催中の多彩な展覧会が割安で楽しめます。そのいくつかの展覧会をダイジェストで案内しましょう。

【大阪市立美術館の「山の神仏 吉野・熊野・高野」】団体割引料金扱い、コレクション展(平常展)は無料入場券付き。

「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録10周年記念展で、吉野・熊野・高野などに伝わる文化財約150点が一堂に展示されています。この3霊場では神仏を分け隔てることなく、まつり崇める「神と仏のありかた」が受け継がれており、江戸時代以前の信仰空間が観賞できます。

国宝「熊野速玉大神坐像」(平安時代、和歌山県・熊野速玉大社)は、大きな冠を被り両腕を組む男神坐像で威厳に満ちた尊像です。一方、「女神坐像」(鎌倉時代、和歌山・三谷薬師堂)は、微笑んでいるような優しい表情です。

国宝「藤原道長経筒(大峯山頂出土)」(平安時代、奈良県・金峯神社)は、吉野・大峯信仰における記念碑的な遺物と言われています。よく見ると、筒側面にぐるりと24行の願文が刻まれています。


重要文化財
「観音菩薩坐像」
(鎌倉時代、浄光明寺)

高野山から出品の重要文化財「不動明王立像(合体不動)」(平安時代、和歌山・金剛峯寺)は、高さが2メートルを超す圧倒的な存在感を放つ像です。このほか各神社に伝わる威風堂々の狛犬や曼荼羅図など、長い伝統と歴史の息づく名品がずらり展示されています。6月1日まで。

【奈良国立博物館の「鎌倉の仏像 迫真のエキゾチシズム」】100円引き、名品展は無料入場券付き。

仏像と言えば、運慶や快慶に代表される慶派の仏師らが奈良の地で活躍しますが、武家のみやこ鎌倉幕府の要人らが寺院を建立し、そこに慶派の仏像を安置したことで、鎌倉にも数々の名品が根づいたのでした。展覧会にはいずれも神奈川県の鎌倉国宝館や周辺の寺院から仏像など53点が出品されています。


重要文化財
「上杉重房坐像」
(鎌倉時代、明月院)

重要文化財「観音菩薩坐像」(鎌倉時代、浄光明寺)は、展覧会図録の表紙になっています。しなやかな体躯に装飾的な髪結い姿で、なんとも優雅な像です。同じく重文「薬師如来坐像」(鎌倉時代、寿福寺)は、北条政子が鎌倉幕府三代将軍源実朝の病気平癒を願っての像で、運慶様式を踏まえた作風だとされています。

ともに鎌倉時代の重文「北条時頼坐像」(建長寺)や「上杉重房坐像」(明月院)は、立烏帽子を被り、手に笏(しゃく)を持った強(こわ)装束姿で代表的な肖像彫刻です。他にも鶴岡八幡宮に伝来の菩薩面と能楽面も多数出品されています。6月1日まで。


ポール・セザンヌ
「大きな松と赤い大地
(ベルヴュ)」
(1885年頃)

【兵庫県立美術館の「夢見るフランス絵画 印象派からエコールド・パリへ」】県美プレミアム展・特別展とも団体割引料金扱い。
モネ、セザンヌ、シスレーら印象派やルノワール、モディリアーニやキスリング、藤田嗣治らエコールド・パリの画家たちに代表されるなじみのフランス絵画の名品71点が展示されています。

セザンヌの「大きな松と赤い大地(ベルヴュ)」(1985年頃)は、生地エクスの近郊ベルヴュの眺めを描いています。画面左側に枝を伸ばした松の大木が描かれ、その背後にのどかな風景が広がっています。


ピエール=オーギュスト・
ルノワール
「ド・ガレア夫人の肖像」
(1912年)

このほかルノワールの「ド・ガレア夫人の肖像」(1912年)、モネの「睡蓮のある池」(1919年)、デュフィの「ニースのホテルの室内」(1928年)、モディリアーニの「バラをつけた若い婦人」(1916年)などの名作が並んでいます。こちらも6月1日まで。


【京都国立近代美術館の「FUTURE BEAUTY 日本ファッション:不連続の連続」】団体割引料金扱い、コレクション展は無料券付き。


山本耀司の
黒いドレスの展示

20世紀後半、世界を注目させ先導した日本ファッションを、国際的に評価されたデザイナーから新たな感性を持って活躍する若手らの作品約100点を展示しています。この展覧会は世界5都市を巡回し、京都展では伝統を守り革新する京都と現代ファッションの関わりを浮き彫りにした展示構成となっています。

1960年代に登場した森英恵に始まって、70年代には高田賢三や三宅一生が欧米で作品を発表し、1980年代に入ると川久保玲や山本耀司がパリでデビュー。日本人デザイナーの作品は、平面性や素材の重視、無彩色など前衛的で大きな衝撃を与えました。


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山縣良和 ドレス「福禄寿」

京都では、高い職人技を兼ね備えた工芸的な要素と、デザイナーが協業して、ファッションの独自性を発揮しています。この展覧会は、日本ファッションの動向と、何よりマネキンを駆使した華麗なディスプレイで「美しさ」を満喫できます。こちらは5月11日まで。









 

しらとり まさお
文化ジャーナリスト、民族藝術学会会員、関西ジャーナリズム研究会会員、朝日新聞社元企画委員
1944年、新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、1970年に朝日新聞社入社。広島・和歌山両支局で記者、大阪本社整理部員。鳥取・金沢両支局長から本社企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を努める。この間、戦後50年企画、朝日新聞創刊120周年記念プロジェクト「シルクロード 三蔵法師の道」などに携わる。

新刊
「反戦」と「老い」と「性」を描いた新藤監督への鎮魂のオマージュ

第一章 戦争を許さず人間愛の映画魂
第二章 「太陽はのぼるか」の全文公開
第三章 生きているかぎり生きぬきたい

人生の「夢」を持ち続け、100歳の生涯を貫いた新藤監督。その「夢」に交差した著者に、50作目の新藤監督の「夢」が遺された。幻の創作ノートは、朝日新聞社時代に映画製作を企画した際に新藤監督から託された。一周忌を機に、全文を公開し、亡き監督を追悼し、その「夢」を伝える。
新藤兼人、未完映画の精神 幻の創作ノート
「太陽はのぼるか」

発売日:2013年5月29日
定価:1,575円(税込)
発行:三五館
新刊
第一章 アートを支え伝える
第二章 多種多彩、百花繚乱の展覧会
第三章 アーティストの精神と挑戦
第四章 アーティストの精神と挑戦
第五章 味わい深い日本の作家
第六章 展覧会、新たな潮流
第七章 「美」と世界遺産を巡る旅
第八章 美術館の役割とアートの展開

新聞社の企画事業に長年かかわり、その後も文化ジャ−ナリスとして追跡する筆者が、美術館や展覧会の現況や課題、作家の精神や鑑賞のあり方、さらに世界の美術紀行まで幅広く報告する
展覧会が10倍楽しくなる!
アート鑑賞の玉手箱

発売日:2013年4月10日
定価:2,415円(税込)
発行:梧桐書院
・国家破綻危機のギリシャから
・「絆」によって蘇ったベトナム絹絵 ・平山郁夫が提唱した文化財赤十字構想
・中山恭子提言「文化のプラットホーム」
・岩城宏之が創った「おらが街のオケ」
・立松和平の遺志,知床に根づく共生の心
・別子銅山の産業遺産活かしまちづくり

「文化とは生き方や生き様そのものだ」と 説く著者が、平山郁夫、中山恭子氏らの文 化活動から、金沢の一市民によるベトナム 絹絵修復プロジェクトまで、有名無名を問 わず文化の担い手たちの現場に肉薄、その ドラマを活写。文化の現場レポートから、 3.11以降の「文化」の意味合いを考える。
ベトナム絹絵を蘇らせた日本人
「文化」を紡ぎ、伝える物語

発売日:2012年5月5日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
序 章 国境を超えて心の「家族」がいる
第一章 各界識者と「共生」を語る
第二章 変容する共産・社会主義
     世界の「共生」
第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
    広がる「共生」の輪

私たちは誰しも一人では生きていけな
いことをわかっていながら、家族や地域、国家 や国際社会のことに目を向けなくなっている。「人のきずなの大切さと、未来への視点」自らの体験を通じた提言としてまとめた。これからの生き方を考える何がしかのヒントになればと願う。
無常のわかる年代の、あなたへ
発売日:2008年3月17日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
アートの舞台裏へ
発売日:2007年11月1日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。
アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
(木村重信さんの序文より)
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
内容:「本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、実地踏査にもとづいて報告されている」と山折哲雄先生が序文を寄せている。

◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06−6257−3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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