あべのハルカス美術館、東大寺展で開館

2014年3月18日号

白鳥正夫

春3月、あべのハルカス美術館が大阪市阿倍野区にオープン。そのこけら落としは特別展「東大寺」です。新美術館は、60階建て、高さ300メートルで日本一の超高層ビルの16階にあります。東京・六本木ヒルズ52階の森アーツセンターギャラリーと並ぶ都市型美術館として注目されています。平日は夜8時まで開館しており、勤め帰りにも立ち寄れます。さらに国宝、重要文化財の展示も可能な設備を備えていて、今後は近鉄沿線の文化財と、東洋・西洋美術から現代アートまで多彩な展覧会が楽しめそうです。


あべのハルカス美術館展示室

 

最新の照明設備や空調システム
古美術から現代アートの展開も


ハルカス美術館デザイン

関西の美術館事情は、2011年春に龍谷ミュージアムが日本初の本格的な仏教の総合博物館として西本願寺の東向かいに開館。その翌年の「文化」の日、兵庫県出身の美術家、横尾忠則の作品コレクションや資料を集めた横尾忠則現代美術館が神戸市灘区の原田の森ギャラリー西館にオープンしています。さらに京都国立博物館では9月に、5年余の歳月を経て平常展示室「平成知新館」を開館の運びです。
 
一方、大阪は、1990年に準備室が設置されている大阪市立近代美術館構想が紆余曲折で開館が遅れに遅れています。そうした中、待望の、あべのハルカス美術館誕生となったのでした。経営主体の近畿日本鉄道では、文化事業を通じて沿線の文化を守り、沿線の文化を育て、地域杜会の発展に貢献することを謳い、文化事業の発信基地としての役割を担っているとのことです。


国宝「誕生釈迦仏立像・
灌仏盤」
(奈良時代、東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、
撮影:佐々木香輔

重要文化財
「四聖御影(永和本)」
(南北朝時代、東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、
撮影:森村欣司

重要文化財
「弥勒仏坐像」
(平安時代、東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、
撮影:佐々木香輔

ロゴマークのデザインは、「Art×Human―あらゆるアートを、あらゆる人に。」をコンセプトに、ABENOおよびARTの「A」と、HARUKASおよびHUMANの「H」。丸みのある親しみやすさをイメージし、「AとH」が寄り添っているようにも見えるデザインで、「ArtとHumanが交わるところにこそ、Museumは生まれる」といった趣旨だそうです。
 
超高層複合ビルの低層階には近鉄百貨店、中層階にはオフィス、高層階には大阪マリオット都ホテルや展望台が入居しています。美術館へは、1階にあるハルカスシャトルのエレベーターで16階へ。中庭もあり、眺めが楽しめます。なにしろ近鉄のほか、JR、地下鉄などが集中する天王寺地区のターミナルに立地しており、利便性は格別です。
 
美術館は、約80メートルの高所にありますが、国宝などの展示ができる耐震、防火、防犯面の条件を満たし、最新の照明設備や空調システムを備えています。広さは880平方メートルあり、可動壁で自由に展示レイアウトでき、外光を取り入れた展示も可能です。古美術から現代アートまで多様な展覧会で、年間50万人の入場者数を見込んでいます。
 
すでにプレオープン企画展として「あべのハルカス お披露目展示」が、3月7日から3日間、無料で開催されました。近鉄グループの大和文華館、松伯美術館、大和文化財保存会、都ホテルズ&リゾーツ各館、近鉄百貨店等の所蔵する名品約60点が展示されました。

重要文化財の尾形光琳「扇面貼交手筥」(大和文華館蔵)や上村松園「花嫁」(奈良ホテル蔵)、東郷青児「山之幸」・藤田嗣治「海之幸」(いずれもシェラトン都ホテル大阪蔵)などが鑑賞できました。
 
東大寺展の後は、「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション」(5月31日−7月21日)、「デュフィ展」(8月5日−9月28日)、「新印象派 光と色のドラマ」(10月10日−2015年1月12日)「高野山の名宝」(年1月23日−3月8日)が予定されています。


「執金剛神縁起 3巻」(室町時代、東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、撮影:森村欣司

 

開館記念の「東大寺」展には
国宝4件、重要文化財20件


「華厳海会善知識曼荼羅図」
(明時代 東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、
撮影:森村欣司

開館記念の「東大寺」展は5月18日までの開催です。国宝の「誕生釈迦仏立像」や「重源(ちょうげん)上人坐像」をはじめ、東大寺創建当初の姿を伝える宝物や、伝統を伝える宝物、数度にわたる被災からの再興の歴史を物語る宝物など、国宝4件、重要文化財20件を含む精選された約70件が出展されます。
 
展示は三章で構成されています。美術館提供のリーフレットをもとに、見どころと主な展示品を紹介します。第一章は「東大寺創建と東大寺の伝統」で、聖武天皇が創建して以来、創建に尽くした人々や、鑑真和上と日本初の戒壇に関わる作品、現代まで続く修二会に関わる作品、さらに復興勧進に際して制作された縁起物などが展示されています。


「善財童子像」
(鎌倉時代、東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、
撮影:森村欣司

主な出品物としては、釈迦の誕生を祝う花祭りの本尊である「誕生釈迦仏立像」(奈良時代)は、像の高さ47センチの小ささですが、右手を上げ、左手を下し「天上天下唯我独尊」の姿を現しています。

重要文化財の「絹本著色四聖御影(ししょうのみえ)」(永和本、南北朝時代)は、東大寺大仏造立の発願者であった聖武天皇と、大仏を開眼した菩提遷那(ぼだいせんな)、大仏造立の勧進をした行基、東大寺初代別当の良弁を描いています。
 
同じく重文の「木造弥勒仏坐像」(平安時代)は、40センチほどの小像ながら、身体の表現は堂々としていて、通称「試みの大仏」と親しまれている一品です。
 
第二章「教学興隆」では、学問の寺としての東大寺において華厳(けごん)研究など教学の興隆の中で作られた善財童子などの作品や、平安時代に入って空海らにより密教が伝えられてからの舎利信仰に関わる作品により構成されています。


「金亀舎利塔」
(室町時代、東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、
撮影:森村欣司

「絹本著色善財童子像」(鎌倉時代)は、61×40.9センチの小さな画像です。『華厳経』入法界品(にゅうぽっかいひん)の主人公で、賢者のもとを巡歴して悟りに至る善財童子の姿が描かれています。画面の外の何者かに向かって可愛らしい童子が合掌しています。

また「絹本著色華厳海会善知識曼荼羅図」(中国・明時代)の中央上部に毘やはり様々な賢者を巡歴して悟りに至る場面を描いています。
 
「金亀舎利塔(きんきしゃりとう)」(室町時代)は、亀の背に透かし彫りの宝塔を乗せた形の舎利塔です。鑑真が渡海のとき金亀が三千粒の舎利(釈迦の遺骨)を守ったという伝説にしたがって造形されたといい、唐招提寺の金亀舎利塔を模したものとされています。


国宝「重源上人坐像」
(鎌倉時代、東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、
撮影:佐々木香輔

最後の第三章「復興の歴史」は、焼亡のたびに重源や公慶らが中心となった勧進により復興される東大寺の有様を伝える作品や、復興の中で制作された作品により構成されています。東大寺は治承4年(1180年)の平重衡(しげひら)の兵乱により伽羅の焼亡など甚大な被害をこうむりましたが、重源の勧進によって復興されます。さらに室町時代末期に三好・松永の兵火で再び罹災した後、江戸時代に勧進復興を果たした公慶と復興の有様を紹介する作品を中心に展示しています
 
国宝の「木造重源上人坐像」(鎌倉時代)は、東大寺の鎌倉復興を推進した大勧進の俊乗房(しゅんじょうぼう)重源の最晩年の姿を伝える像で、わが国の肖像彫刻の代表作とされています。

重要文化財の「木造地蔵菩薩立像」(鎌倉時代)は、重源に帰依した快慶の作品で、東大寺にも僧形(そうぎょう)八幡神像、俊乗堂阿弥陀如来像等が伝わります。地蔵菩薩の来迎を表すこの像は、快慶の円熟期を代表する美しい立像作品です。


重要文化財
「地蔵菩薩立像(快慶作)」
(鎌倉時代、東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、
撮影:佐々木香輔

「大仏殿虹梁木曳図(こうりょうこびきず)」(江戸時代)は、木曳の様子がユーモラスに描かれています。江戸時代の再興で大仏殿に渡された大虹梁は日向国から海路に運ばれ淀川をさかのぼり、山城国木津からは毎日2、3千人の人に陸路を2週間曳かれて奈良に着いたとされています。
 
会場では、東大寺大仏殿の柱の原寸大模型と、南大門の2体の仁王さんの頭部と手首の原寸大模型が出品されていて、間近で見ることができます。
 
会期中の3月29日、奈良国立博物館の西山厚・学芸部長の「大仏開眼四度 聖武天皇から公慶上人へ」と題する記念講演会があります。
 
また4月19日には、「神も仏も日本のこころ」のシンポジウムが催され、宗教学者の山折哲雄さんがコーディネーターを努め、華厳宗管長で東大寺別当の筒井寛昭さんと、金剛峯寺座主で高野山真言宗管長紀伊山地三霊場会議総の松長有慶さんが講師です。


「大仏殿虹梁木曳図 古筆」
(江戸時代、東大寺所蔵)
画像提供:奈良国立博物館、撮影:森村欣司


 
講演会、シンポジウムとも無料ですが、お問合せ先は06−4399−9050へ。

 
一方、東大寺といえば、2011年に東大寺ミュージアムが開館しています。
こちらも「東大寺の歴史と美術」をテーマに、奈良時代の聖武天皇による創建から、平安時代の塔頭の成立と学問の多様化、平安時代末から鎌倉時代初期の戦乱を経た後の鎌倉復興、室町時代末から江戸時代にかけての罹災と復興の歴史など、奈良天平の創建から江戸までの長い歴史と、時代ごとに生み出された彫刻・絵画・書跡・工芸等の寺宝の数々がてんじされています。合わせて観賞すれば、より理解を深められます。

 


 

しらとり まさお
文化ジャーナリスト、民族藝術学会会員、関西ジャーナリズム研究会会員、朝日新聞社元企画委員
1944年、新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、1970年に朝日新聞社入社。広島・和歌山両支局で記者、大阪本社整理部員。鳥取・金沢両支局長から本社企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を努める。この間、戦後50年企画、朝日新聞創刊120周年記念プロジェクト「シルクロード 三蔵法師の道」などに携わる。

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ベトナム絹絵を蘇らせた日本人
「文化」を紡ぎ、伝える物語

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発行:三五館
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第一章 各界識者と「共生」を語る
第二章 変容する共産・社会主義
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第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
    広がる「共生」の輪

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無常のわかる年代の、あなたへ
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発行:三五館
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発行:梧桐書院
内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。
アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
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「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
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内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
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発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
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内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢追いびとのための不安と決断
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発行:三五館
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