美術も実りの秋、世界の名画続々

2012年9月11日号

白鳥正夫


ヨハネス・フェルメール
「真珠の耳飾りの少女」
(1665年頃、
以下4枚は
マウリッツハイス
美術館蔵)

フェルメールにレンブラント、グレコやマティス、北斎に高橋由一、さらには山口華楊……。この秋から年末にかけて世界の巨匠たちの名画が関西に続々と登場します。猛暑の夏も峠を越し実りの秋を迎えますが、多彩な「美術の秋」が展開します。今回はひと足早く開催中の「マウリッツハイス美術館展」(9月17日まで東京都美術館)と「大エルミタージュ美術館展」(9月30日まで名古屋市美術館)を鑑賞しましたので、両展を中心に、「エル・グレコ展」など今後目白押しの展覧会のラインナップをまとめて紹介します。

フェルメールの少女、レンブラントの自画像

まず「マウリッツハイス美術館展」は、9月29日から2013年1月6日まで神戸市立博物館でロングラン開催です。何といってもヨハネス・フェルメール(1632-1675)の有名な「真珠の耳飾りの少女」(1665年頃)が関西では二度目のお目見えです。


ヨハネス・フェルメール
「ディアナとニンフたち」
(1653-54年頃)

フェルメール作品は世界でわずか30数点しか確認されていないとあって、来日の度に大反響です。昨年は「フェルメールからのラブレター展」は京都市美術館で、「フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展」が豊田市美術館で同時期に開催され、このサイト7月15日号に寄稿しております。

「真珠の耳飾りの少女」は2000年に大阪市立美術館で開かれた「フェルメールとその時代展」で日本で初公開され、60万人以上の観客を集めたのでした。この年、私はオランダを訪れ、マウリッツハイス美術館で、間近にじっくり見ることができたのでした。

フェルメールの代表的な名画は耳元で光る真珠と青いターバン、肩まで垂れ下がる黄色い布の可憐な少女が、暗い背景の中から澄んだ瞳でこちらを見つめている姿で描かれ、一度見ると残像が浮かぶほどの印象的な作品です。「ディアナとニンフたち」(1953−54年頃)も出品されています。

今回の展覧会は、マウリッツハイス美術館が改修工事で一時休館することもあって実現。「オランダ・フランドル絵画の至宝」との副題が付けられ、フェルメールはじめ約50点の傑作が展示されます。


レンブラント・ファン・レイン
「自画像」
(1669年)


フランス・ハルス
「笑う少年」
(1625年頃)

レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)の作品も最後の「自画像」(1669年)や「スザンナ」(1636年)など6点が出品されます。「自画像」の老いても力のこもった目や、「スザンナ」の入浴前に人の気配におびえる目など、光と闇の圧倒的な表現力は天才ならではの傑作です。

このほか肖像画で有名なフランス・ハルス(1582‐1666)の「笑う少年」(1625年)、風景画家のヤーコプ・ファン・ライスダール(1628?‐1682)の「漂白場のあるハールレムの風景」(1670‐1675年頃)、ペーテル・パウル・ルーベンス(1577‐1640)「聖母被昇天(下絵)」(1622‐25年頃)、さらにはヤン・ブリューゲル(父、1568‐1625)の「四季の精から贈り物を受け取るケレスと、それを取り巻く果実の花輪」(1621‐22年頃)など名品ぞろいです。

マティスの「赤い部屋」やピカソ、ヴェチェリオも

「大エルミタージュ美術館展」は、10月10日から12月6日まで京都市美術館に巡回開催されます。「世紀の顔・西欧絵画の400年」の副題どおり、300万点以上の所蔵品を誇る同館から16世紀のベネチア絵画の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェリオ(1488・90‐1576)から20世紀のアンリ・マティス(1869‐1954)バブロ・ピカソ(1881‐1973)ら83画家の89点を一堂に集めています。


アンリ・マティス
「赤い部屋(赤のハーモニー)」
の展示(名古屋市美術館で)

目玉作品は、同館でも人気のあるマティスの「赤い部屋(赤のハーモニー)」(1908年)です。2006年に現地を訪ね、「ダンス」(1910年)とともに鑑賞しています。壁もテーブルも赤い色彩で描かれ奥行き感がないのですが、色彩感にあふれ魅了されます。元は青色を基調とした(青のハーモニー)だったのを、マティスが描き変えたと言います。

ピカソの「マンドリンを弾く女」(1909年)は20歳代で描いた具象作品です。ヴェチェリオの「祝福するキリスト」(1570年頃)は、十字架を取り付けたクリスタルガラスを手にしたキリストを象徴的に描いた巨匠の晩年の作です。

このほか女性美を描いたピエール=ナルシス・ゲラン(1774‐1833)の「モルフェウスとイリス」(1811年)やジョンシュア・レノルズ(1723‐1792)の「ウェヌスの帯を解くクビド」(1788年)、さらにはポール・セザンヌ(1839‐1906)の「カーテンのある静物」(1894年頃-95年)やラウル・デュフィ(1877‐1953)の「「ドーヴィル港のヨット」(1936年頃)など、多種多様な作品が並びます。


ロレンツォ・ロット
「エジプト逃避途上の休息と聖ユスティナ」
(1529-30年)
以下3枚はエルミタージュ美術館
(C)The State Hermitage Museum,St.Petersburg,2012


ピエール=オーギュスト・ルノアール
「黒い服を着た婦人」(1876年)

ポール・セザンヌ
「カーテンのある静物」(1894年頃-95年)

 
先行の名古屋市美術館の記者説明会で、深谷克典学芸課長は「エルミタージュに大をかぶせていますが、質量ともに最大規模の展覧会です。粒ぞろいの名画で、西洋絵画史をたどれます」と話していました。
 
グレコの大回顧展、縦3メートルを超す祭壇画

世界の傑作、奇跡の集結との触れ込みの「エル・グレコ展」は10月16日から12月24日まで国立国際美術館で開催されます。スペイン黄金時代の巨匠、エル・グレコ(1541‐1614)歿後400年の大回顧展で、世界10ヵ国 から約50点以上が出展されます。

4章構成で、「修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノの肖像」(1611年)や「悔悛するマグダラのマリア」(1576年頃)など肖像画としての聖人像、恐らくローマ時代の最後に描かれた「受胎告知」(1576年頃)、「聖衣剥奪」(1605年頃)などスペインでの宗教画、そして最晩年の最高傑作の縦3メートルを超す祭壇画「無原罪のお宿り」も初来日です。


エル・グレコ
「無原罪のお宿り」
(1607-13年、サンタ・クルス美術館寄託、
トレド、スペイン)
(C)Parroquia de San Nicolas de Bari.Toledo.Spain.


エル・グレコ
「受胎告知」
(1576年頃、ティッセン=ボルネミッサ美術館)
(C)Museo Thyssen-Bornemisza,Madrid

高橋由一や山口華楊の回顧展、シャガールに北斎も

以下は9月から開催の展覧会のラインナップです。


バーン=ジョーンズ
「闘い・龍を退治する
聖ゲオルギウス」
(1866年、
ニュー・サウス・
ウェイルズ美術館,
シドニー)


高橋由一
「鮭」
(重要文化財 1877年頃、
東京藝術大学蔵)

山口華楊
「青垣」
(1978年、北澤美術館)

「バーン=ジョーンズ展―英国19世紀に咲いた花―」(〜10月14日、兵庫県立美術館) エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ(1833‐1898)の「ピグマリオン」の連作や「眠り姫」などの油彩画からタペストリや挿絵本にいたる約80点を展示しています。

「生誕120周年記念 田中恭吉展」(〜10月14日、和歌山県立近代美術館) 田中恭吉(1892‐1915)の12年ぶりの大回顧展。「月映」のための木版画「心原幽趣」Tなど代表作をはじめ、中学時代から晩年までの作品約300点により、全貌を取り上げています。

「近代洋画の開拓者 高橋由一展」(〜10月21日、京都国立近代美術館) 高橋由一(1828‐1894)の人物画や静物画、風景画に加え資料など約120件で全貌を探っています。リアルな筆致で代表作の「鮭」、「花魁」はいずれも重要文化財です。

「シャガール展2012―愛の物語」(10月3日〜11月25日、京都文化博物館) マルク・シャガール(1887‐1985)は、色彩の詩人、愛の画家と親しまれ、生涯にわたって愛し続けたベラとの愛の物語をテーマにしています。代表作の「街の上で」など100点で構成しています。

「北斎―風景・美人・奇想―」展(10月30日〜12月9日、大阪市立美術館) 葛飾北斎(1760‐1849年)は、モネやゴッホら印象派の画家たちにも影響を与えた浮世絵師。「冨嶽三十六景」シリーズを中心に初期から晩年の風景画、佳麗な美人たちの変遷をたどる肉筆画や摺物、奇をてらったユーモラスな作品など約370件が展示されます。

「山口華楊展」(11月2日〜12月16日、京都国立近代美術館) 山口華楊(1899‐1984)は、円山・四条派の写生画を継承し、生命感に満ちた花鳥画、動物画を残した日本画家。「青柿」や「洋犬図」「角とぐ鹿」など本画約75点、素描40点を展示し、「華楊芸術」の神髄に迫る展示です。


 

しらとり・まさお
ジャーナリスト、朝日新聞社前企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を務める。編著書に、『アートへの招待状』(梧桐書院) 『大人の旅」心得帖』 『「文化」は生きる「力」だ』(いずれも三五館)『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)などがある。

新刊
・国家破綻危機のギリシャから
・「絆」によって蘇ったベトナム絹絵 ・平山郁夫が提唱した文化財赤十字構想
・中山恭子提言「文化のプラットホーム」
・岩城宏之が創った「おらが街のオケ」
・立松和平の遺志,知床に根づく共生の心
・別子銅山の産業遺産活かしまちづくり

「文化とは生き方や生き様そのものだ」と 説く著者が、平山郁夫、中山恭子氏らの文 化活動から、金沢の一市民によるベトナム 絹絵修復プロジェクトまで、有名無名を問 わず文化の担い手たちの現場に肉薄、その ドラマを活写。文化の現場レポートから、 3.11以降の「文化」の意味合いを考える。
ベトナム絹絵を蘇らせた日本人
「文化」を紡ぎ、伝える物語

発売日:2012年5月5日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
序 章 国境を超えて心の「家族」がいる
第一章 各界識者と「共生」を語る
第二章 変容する共産・社会主義
     世界の「共生」
第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
    広がる「共生」の輪

私たちは誰しも一人では生きていけな
いことをわかっていながら、家族や地域、国家 や国際社会のことに目を向けなくなっている。「人のきずなの大切さと、未来への視点」自らの体験を通じた提言としてまとめた。これからの生き方を考える何がしかのヒントになればと願う。
無常のわかる年代の、あなたへ
発売日:2008年3月17日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
アートの舞台裏へ
発売日:2007年11月1日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。
アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
(木村重信さんの序文より)
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
内容:「本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、実地踏査にもとづいて報告されている」と山折哲雄先生が序文を寄せている。

◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06−6257−3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
「ぶんかなびで知った」といえば送料無料に!!
 

 

もどる