佐久間良子さん、関西で初の個展

2010年4月26日号

白鳥正夫


佐久間良子さん


「おんな太閤記」
の佐久間さん

女優の佐久間良子さんは、1975年に日展で入選するなど、早くから書家としても知られています。2008年12月にはニューヨーク市マンハッタンの日本クラブのギャラリーで、天台宗大僧正・荒了寛さんと合同展を開催し注目を集めました。日本での個展は2006年と08年に名古屋の画廊で開いていますが、関西で最初の個展が、大阪の山木美術で4月27日から5月14日まで開催されます。芸能人には絵画をたしなむ方が多くいますが、書をこなせる方は珍しく、大女優の隠れた一面をうかがう好機でもあります。今回は現在開催中の「写真家中山岩太展」(兵庫県立美術館、5月30日まで)と、「韓国の民画と絵本原画展」(西宮市大谷記念美術館、5月23日まで)も、併せて紹介します。

日展に入選、地道な書道への道

佐久間さんは東京都練馬区の出身。川村女学園在学中に、東映の東京撮影所の運動会に先輩から誘われたこともあって、スカウトの方の目にとまったようです。映画入りについては家族らも反対します。しかし熱心な誘いもあって、1957年に第4期ニューフェイスとして入社します。同期には山城新伍、花園ひろみ、山口洋子さんらがいます。


「凛」

俳優座養成所で半年間の研修を受け、1960年代以降、今井正監督「白い崖」、家城巳代治監督「秘密」、自ら映画化を希望した村山新治監督「故郷は緑なりき」と着実な歩みをみせ、東映の看板女優として活躍します。「五番町夕霧楼」や「越後つついし親知らず」「湖の琴」「細雪」といった代表作など130本もの映画に出演しています。

またテレビドラマでは「おんな太閤記」のねね役でお茶の間の人気を博し、舞台でも1983年に菊田一夫演劇大賞、1995年に文部省芸術祭賞を受賞しています。2004年の舞台大作「鹿鳴館(戯曲)」(原作三島由紀夫)で元夫の平幹二郎さんと成人して俳優になった長男の平岳大さんと共演し話題になっています。


「天地人」


「雪月花」

一方、幼少から字を書くことが好きで、1975年に日展に入選後は故手島右郷氏に師事し、2000年に毎日書道展で毎日大賞を受けるなど才能を開花し、書道家としても活躍してきました。これまで名古屋市内のアートサロン光玄で「個展」が開いていますが、2008年末には、ニューヨーク日本クラブのギャラリーにて、荒了寛さんの水墨画・仏画との「二人展」を開催しています。

2009年秋、知人の紹介で佐久間さんとお会いしたことがあります。その時、初めて書の作品を見せていただきました。佐久間さんは、作品の多くを富山の自然の中で、自然の湧き水を使い、2時間かけて磨った墨で仕上げるとのことでした。その作品は清々しく情緒的でさえありました。と同時に、スクリーンを通してしか知らない大女優がかくもこんな美しい字が書けることに驚いたものです。

書の魅力について、佐久間さんは「書も芝居と似て、同じものは2度と書けません。一期一会の気持ちを込めて表現しています。心の思いを心の書として、これからも時間の許す限り書き続けたい」と話しています。


「一期一會」


「花は無心にして蝶を招く
蝶は無心にして花を尋ねる」

美しい境地と、直木賞作家も絶賛


佐々木直喜さんの
作品「爽緑 」

今回の個展では額装や軸、色紙など多様な作品約80点を展示します。作品は佐久間さんの好きな言葉の「凛」「朧」「翔」といった一字書きや「一期一會」「天地人」「雪月花」「日々是好日」の言葉、さらには「花は無心にして蝶を招く 蝶は無心にして花を尋ねる」「あの月をとってくれろと泣く子かな」「生きることは一筋がよし」といった文章などが流暢に書かれています。

佐久間さんは、作品集の中で「書は和紙と自分との対決で、書き直しが出来ない一回限りの真剣勝負ですが、それ故に不思議なことに、その時の自分の心理状態がそのまま書に現れています」と、女優の仕事同様に、書への心境を綴っています。

山木美術では絵画や陶芸、ガラス工芸、彫刻など様々なジャンルの展覧会を催していますが、書の展覧会は2度目だといいます。代表の山木武夫さんは、「書(字)は体を表すとは良く言ったものです。作品を目にした私は、上品で美しい文字に見とれてしまいました。そして女優として歩まれてきた豊かな感性と、道を究めた女性としての大らかな陽のパワーを感じました」と、佐久間さんの書だけでなく、その情熱に共鳴したそうです。


書への思いを話す
佐久間さん
(2009年東京)

作品に花を添えるのが、フラワーアーティストの佐々木直喜さんです。佐々木さんは2006年に国際フローラルアート年鑑最優秀賞を受賞しています。佐久間さんとは名古屋の画廊を通じ知りあったたそうです。「書道も華道も形をあらわすものではなく、その人の心、積み重ねて人生そのものを表すものだと思う」と語る佐々木さんは、その時は佐久間さんの書の空間に柳と水仙一輪を生けたといいます。今回は5年目のコラボレーションとなります。

佐久間さんの個展に寄せて、作詞家で直木賞作家の、なかにし礼さんが「美しき境地」のタイトルで次のようなメッセージを寄せています。

「天地人」という作品は、ものの見事に、書が持つべき要素のすべてがそなえられていると思わずにはいられない。「竹」は美術的に卓越しているばかりなく、自然への愛がにじみでている。「心」は佐久間良子の心を、いや、彼女自身がそうありたいと願う心のありようを目のあたりにする思いがする。この個展の一連の作品を見ながら、なんという素晴らしくも美しい境地にまで達したことだろうと、佐久間良子の人生にあらためて感動するのである。

 

新興写真運動の先駆者、中山岩太


「福助足袋」
1930年

「写真家中山岩太展」は、二部構成になっています。第一部は「甦る中山岩太−モダニズムの光と影」で、「ポートレイト(女の顔)」などヴィンテージプリントに加え「長い髪の女」などのニュープリント、「福助足袋」や「上海から来た女」といったガラス乾板など合わせて約120点が出品されています。2008年、東京都写真美術館で開催された展覧会と同じ内容です。

第二部の「レトロ・モダン 神戸−中山岩太たちが遺した戦前の神戸」は、いわば神戸バージョンを追加した形で、兵庫県美に寄託されているヴィンテージプリントのうち、「神戸風景」の連作をもとに、それらと共通するモチーフを扱った金山平三らの絵画や川西英の版画のほか、安井仲治らの写真、さらに映像も併せて、多面的に展示しています。

中山岩太(1895-1949)は福岡・柳川出身ですが、兵庫県ゆかりの写真家です。1915年に東京美術学校(現在の東京藝術大学)に新設された臨時写真科に入学し、卒業後はニューヨークやパリなど海外で写真の研鑽を積み、欧米の最先端の美術運動を経験します。帰国後は芦屋を拠点に、「芦屋カメラクラブ」を創設し新興写真のジャンルで活躍するとともに、神戸大丸で写真スタジオを開設、ポートレイト写真の名手としてその名を知られました。また、コマーシャル写真や観光写真でも、日本の写真史に残る先鋭的な表現によって、日本の芸術写真の地位確立に貢献したのでした。


「上海から来た女」
1936年頃

私が中山の存在を知ったのは1995年、芦屋市立美術博物館で「ハナヤ勘兵衛展」を見てからです。「芦屋カメラクラブ」は、中山とハナヤ(1903−1991、本名桑田和雄)らが中心になって活動したのでした。目の前の景色や人物を写し撮る写真ではなく、人体や静物などを巧みに組み合わせた美術的な作品を発表したのでした。その後、中山の作品を美術館や写真集などで見たことがありますが、非凡な表現方法に関心を寄せていました。

今回、初めて体系的に見て、近年の写真展では味わったことのない新鮮な写真世界をあらためて認識させてくれるに十分でした。新興写真運動を実践した代表作を拝見できると同時に、当時のプリントと今回ガラス乾板から新たに起こした大型プリントを見比べながら観賞できます。

代表作の「福助足袋」(1930年)は、足袋1足の白い底面に福助のロゴマークを組み合わせたものですが、そのグラフィック感覚の斬新さは失われていません。「長い髪の女」(1933年)や「上海から来た女」(1936年頃)は、リアルな写真であるのみならず、女の表情や髪が昭和モダンを印象付け、一種独特な当時の雰囲気を醸し出していています。

韓国の民画と絵本の出会いの展示


「虎図」
嘉会民画博物館蔵

一方、「韓国の民画と絵本原画展」は、韓国100年の歴史の中で変化してきた視覚芸術文化を、過去の「民画」36点と現代の「絵本原画」80点を通して紹介しています。

民画は李朝末期から20世紀前半にかけて、庶民の家庭で飾られていた絵画です。文字図や冊架図と呼ばれる絵画は文字や、動植物や暮らしの身近な題材を取り上げ、精神生活に深く結びついたものです。中でも虎は恐ろしい存在ではなく、邪神を払う親しみの対象として頻繁に描かれています。これらの民画は主に屏風仕立てにして書斎や子ども部屋に置き、親は子どもに知識や智恵を身につけてくれることを願っていたとのことです。

現在では、民画に代わって絵本が子どものための新しい情操教育メディアとして脚光を浴び、韓国のイラストレーターたちによって独自の絵本作りがなされ出版されています。絵本の色彩や創作感覚などには伝統的な大衆絵画としての民画の影響も反映しているとの説があります。

イタリア・ボローニャ国際絵本原画展を継続開催している西宮市大谷記念美術館ならではの企画展で、川辺雅美学芸課長は「今回の展覧会には7人の絵本作家の作品も展示しています。民画と絵本の出会いの試みが実現した当館だけの貴重な展覧会です。ぜひこの機会に観賞してほしい」と呼びかけています。

 

しらとり・まさお
ジャーナリスト、朝日新聞社前企画委員。1944年、愛媛県新居浜市生まれ。中央大学法学部卒業後、日刊工業新聞社編集局を経て、1970年に朝日新聞社編集局に入社。広島、和歌山両支局で記者をした後、大阪本社整理部員。1989年に鳥取支局長、1991年に金沢支局長、1993年に大阪企画部次長に転じ、1996年から2004年まで企画委員を務める。編著書に、『アートへの招待状』(梧桐書院) 『大人の旅」心得帖』 『「文化」は生きる「力」だ』(いずれも三五館)『夢をつむぐ人々』『夢しごと 三蔵法師を伝えて』『日本海の夕陽』(いずれも東方出版)、図録『山本容子の美術遊園地』『西遊記のシルクロード 三蔵法師の道』『ヒロシマ 21世紀へのメッセージ』(いずれも朝日新聞社)などがある。

新刊
序 章 国境を超えて心の「家族」がいる
第一章 各界識者と「共生」を語る
第二章 変容する共産・社会主義
     世界の「共生」
第三章 ミニコミ誌『トンボの眼』から
    広がる「共生」の輪

私たちは誰しも一人では生きていけないことをわかっていながら、家族や地域、国家 や国際社会のことに目を向けなくなっている。「人のきずなの大切さと、未来への視点」自らの体験を通じた提言としてまとめた。これからの生き方を考える何がしかのヒントになればと願う。
無常のわかる年代の、あなたへ
発売日:2008年3月17日
定価:1,680円(税込)
発行:三五館
アートの舞台裏へ
発売日:2007年11月1日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:アートの世界を長年、内と外から見てきた体験を織り交ぜ、その時折の話題を追った現場からの報告。これから長い老後を迎える団塊の世代への参考書に、若い世代にも鑑賞のあり方についての入門書になればと思う。
アートへの招待状
発売日:2005年12月20日
定価:1,800円(税込)
発行:梧桐書院
内容:本書を通じて白鳥さんが強調するのは「美術を主体的に受け止める」という、鑑賞者の役割の重要性である。なぜなら「どんな対象に興味を感じ、豊かな時を過ごすかは、見る者自身の心の問題だ」からである。
(木村重信さんの序文より)
「大人の旅」心得帖
発売日:2004年12月1日
定価:本体1,300円+税
発行:三五館
内容:「智が満ち、歓びの原動力となるそんな旅を考えませんか。」
高齢化社会のいま、生涯をかけてそれぞれの「旅」を探してほしい。世界各地の体験談に、中西進先生が序文を寄せている。
「文化」は生きる「力」だ!
発売日:2003年11月19日
定価:本体1400円+税
発行:三五館
内容:50歳を前にして企画マンを命じられた新聞人が、10年間で体感し発見した、本当の「文化」のかたちを探る。平山郁夫画伯らの文化財保存活動など幅広い「文化」のテーマを綴る。
夢をつむぐ人々
発売日:2002年7月5日
定価:本体1,500円+税
発行:東方出版
内容:新藤兼人、中野美代子、平山郁夫など、筆者が仕事を通じて出会った「よき人」たちの生き方、エピソードから、ともにつむいだ夢を振り返るエッセイ集。
夢追いびとのための不安と決断
発売日:2006年4月24日
定価:1,400円+税
発行:三五館
内容:「本書には、日本列島の各地でくり広げられている地道な地域再興の物語が、実地踏査にもとづいて報告されている」と山折哲雄先生が序文を寄せている。

◆本の購入に関するお問い合わせ先
三五館(03−3226−0035) http://www.sangokan.com/
東方出版(06−6257−3921)http://www.tohoshuppan.co.jp/
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