なにわの詞(ことば)さがし

なにわことばのつどい 中井正明

 

“ばさん”
 孫の質問にお爺(ジン)が答える、「そんなン婆様(バサン)に聴いてんか。」ばさんは、お婆(バン)とも呼び祖母または老女を指して言う。大阪弁には言葉の中に撥音の「ん」を入れて使う表現が数多い、五合二月皆牛蒡(ゴンゴニンガツミンナゴンボ)・鳶幽霊葬礼菓子(トンビユーレンソーレンカシン)などもこの類例であるが、使(ツコ)てなはる人減ってモタネ。

“のぉいき” 
 野行きでハイキングのこと。桜の宮や箕面の滝見物、野崎参り等、良い季節に郊外に出かける娯楽に使う用語。更に遠出した蜜柑狩り・栗拾い等は山行きと称したがもう死語になってマイマシタワ。

“つくり”
 作り身の略語で大阪では「おつくり」が一般的。串刺しの様に並べてある刺身は別物。河豚の菊づくり、鮪の薔薇づくり、鯛や鮃の牡丹づくり等、花形に盛り付けているのが美しい。さて無形文化財の咄家が一席ヤッタ中で「ドヤ鯛の刺身、食べるかぃ」と出入りの植木屋に言う台詞(せりふ)を耳にしたが、コラどうもオカシイネ。なにわの旦那(ダン)さんはサシミとはいわン筈やデ。

“どざいもんのかわながれ”
 土左衛門の川流れで、食い(杭)に掛かったら離れない=イヤシンボに言う洒落詞。「川流れの芥(ごもく)」も同義語であり蔑称。この成瀬川土左衛門様(サン)は亨保の頃(18世紀初)の相撲(スモン)取り水脹(ぶくれ)の様に肥大であったので戯れて溺死者の代名詞にされた次第。

“いちびる”
 半世紀以上も昔、餓鬼(コドモ)の頃オモチャも何も無い時代に育った男子はヤンチャ、女子は御淑(しと)やかでやした。「アーァ、先生に言うタロー、マァキちゃん硯(すずり)割りよった!!」こんな話が小学校の思い出におませんかナ。いちびるは「市を振る」から出た純粋の大阪弁で市振(いちぶ)るの転訛語、糴(せり)人の嬌態を動詞化した用法でごぁス。名詞になると“いちびり”。

「Osakaあらかると」VOL.31 より


 

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